第48話 共演NG


「……姉貴? どっか行くのか?」


 昼過ぎに東堂が帰った後、北条はシャワー浴びて服を着替えていた。


「いや……別に?」


(……てか、なんか姉貴そわそわしてね?)


 釈然としない美保はある予測を立てる。



 ――『ピンポーン』


 こうして、本日もゲストがやってきた。



「……アタシが出る」


 最悪のケースを想定した美保は真っ先にモニターを確認しにいく。


 直後、


 ――バンッ!!


 モニター電源にアームハンマーをカマした。



「変な壺の訪問販売だったから断っといた」


「んな訳ねぇだろ!!」


 急いで玄関へ向かった北条が扉を開く。


「わわっ、茉希ちゃん!」


「ごめん! ちょっとインターホンの調子悪くて!」


「ワタシだよ!」


「……それ、お前らの間で流行ってんの?」


「イライライライライラ」



 大トリを務めるゲストは南雲だった。

 早速、家に迎え入れようとした北条に静止が掛かる。



「……待て、姉貴。まだ妹面接が終わってない」


「もういいって、そのコーナー。視聴率低いから」


「妹さん、はじめましてー! 私はの友達の南雲優だよ。よろしくね」


「おい、てめぇ……」



 沸々と怒りを炊いた美保は俯いてプルプルと震えていた。

 やがて、南雲に顔を近づけ睨みつける。



「茉希ちゃん、だと?? 誰の許可取って名前呼びしてんだゴラァ!!」


「いや、俺だよ。それ以外、誰の許可がいるんだよ」


「あ、あれー? ワタシ、妹さんにすごい嫌われてるー?」



 どう見てもチンピラな北条の妹に、流石の南雲もたじろぐ。

 しかし、まだまだ怒り心頭といった様子で美保はまくし立てた。



「知らねぇとは言わせねぇぞ。てめぇー、人の姉貴にベタベタくっ付いて、あまつさえチュープリまで撮るなんて言語道断! 対話拒否じゃボケ!」


「めちゃくちゃ喋ってんじゃねぇか。南雲、こいつは不肖の妹、美保だ。見ての通り度を越したシスコンだ」


「見た目は茉希ちゃんそっくりだねー! よろしくね、美保ちゃん」


「よろしく、だと……? お? 喧嘩か? かかって来いよ。シュッ!シュッ!」


「やめとけ、お前。死ぬぞ」



 北条はイキり小娘に、南雲の戦闘力握力70kgの話をする。

 ファイティングポーズを解いた美保は自分のフィールドで戦う事にした。



「どっちが多く素数言えるか勝負しようぜ」


「地味すぎんだろ」


「勝負がしたいならゲームする? 何個か持ってきたよー」



 南雲は北条と遊ぶ為に持ってきたゲーム機とソフトをカバンから覗かせる。



「お、このゲームならウチにもあるぞ! いいぜ、負けた方が勝った方の言う事なんでも聞けよ!」


「お前、それ……まぁいいか。南雲、お手柔らかに頼む」


「おっけー!」



 こうして、なんだかんだで南雲は北条家の敷居を跨ぐ事に成功した。



 ***


「うぅっ、うわーーーん! ぐすっ……姉貴ぃ、南雲がアタシをいじめる……」


「あぁ、あぁ……わかった、わかった。もう、いい歳なんだからそんなにガチ泣きするな」


 案の定ボコボコにされた妹は姉の胸に顔を埋めて泣いていた。


 南雲たちがプレイしたゲームは『真理子カート』というレースゲームで、世間では『真理カー』の愛称で呼ばれる人気ゲームだ。


 美保も姉よりは上手いのだが、如何せん相手が悪かった。


 北条は泣きじゃくる美保を抱き、優しく背中を撫でて慰める。

 少しばつの悪い南雲が美保を見ると、姉の胸の中からチラリとこちらを窺っていた。



 ――噓泣きである。



 この時点で南雲の罪悪感は消えた。

 北条は度重なる美保のガチ泣きにより噓泣きとの区別がつかなくなっていた。

 それに味を占めた美保は度々こうして姉成分を摂取している。



「茉希ちゃん。なんか、ごめんね?」


「いいよ、気にすんな。だいぶ手加減してくれてたみたいだし。そもそも、こいつから売った喧嘩だしな」


「ありがと。じゃあ……それはそれとして『罰ゲーム』、しよっか?」


「は!? 南雲、お前……アタシこんな泣いてるのに? 鬼なの? 悪魔なの?」



 嘘のように涙を引っ込める美保の誹謗中傷を無視して、南雲は二人で話し合う為のいい方法を探すために考える。



「あ、そうだ。じゃあ美保ちゃん、今日はワタシと一緒にお風呂に入ろう!」


「こ、こいつの狙いはまさか……姉妹丼、か?」


「おい。変な単語出すな」


「いいかな? 茉希ちゃん?」


「いいぞ。俺も正直助かった」


「んー? 助かる?」


「い、いや。こっちの話……」



 話が決まったところで北条は夕食の準備にかかる。

 南雲が手伝いを申し出たが、上段の構えで包丁を持った瞬間に北条はやんわりと断った。


 やがて瑠美も帰宅し、今日もまた北条家の賑やかな晩餐が始まる――



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