第46話 サービス回 side 西宮 麗奈
現在、私はリビングで夕食を準備する北条姉妹を眺めていた。
どうやらここの料理長は北条さんらしい。
美保さんは簡単な下ごしらえや配膳を担当していた。
「ふぃ~、いい湯だったー!」
程なくして、お風呂上がりの瑠美さんが現れた。
彼女は私が座っている長椅子の隣に座る。
それを見計らった北条さんはコップに入ったビールを持ってきた。
「昨日も酔い潰れてたんだから、あんま飲みすぎんなよ」
「今日は大丈夫だって! ごめん、西宮さん。先に頂くねー」
「いえいえ、お気になさらず」
先に断りを入れた瑠美さんは美味しそうにビールを飲む。
そこへ美保さんががおつまみを持ってきた。
緑の野菜(?)のようなものが、それ単品で籠(?)に盛られていた。
「西宮さんも食べてくれよ! アタシの作った枝豆だ!」
「アンタ、作るもなにも茹でただけじゃねぇか」
「ありがとう、それでは頂くわ。箸を頂けるかしら」
「は、箸? やっぱ手、汚れるのとか気になるんですね……?」
箸を貰った私は『枝豆』なるものを箸で1個掴む。
瑠美さんと美保さんは私の感想待ちなのか、その動向に注目をしている。
やがて私が枝豆を口へ運ぶ瞬間、何故か厨房に居た北条さんは私を2度見した。
「ちょっ! おまっ……!」
口に入れた枝豆の味に関しての感想は塩辛い、だ。
続いて、咀嚼した感想に関してだが、非常に噛みづらい。
そして、塩辛い。
まぁ、この一言に尽きるだろう。
「美保! バカ、お前こいつほんまもんのお嬢なんだから枝豆なんて食った事ねぇに決まってんだろ!」
「え……躊躇なく
「す、すげーなフランス式……」
「枝豆の食い方に洋式とかある訳ねぇだろ!」
そして、北条さんは丁寧に枝豆の食べ方をレクチャーしてくれた。
「どうだ? 感想は」
「塩味の豆ね」
「まぁ、塩ゆでの豆だからな」
「おい、美保! オリーブオイル持ってきな! 北条式・地中海風枝豆作るぞ」
「やめとけってお袋! イキってまた変な料理作ろうとすんな!」
北条家はとにかく賑やかだった。
***
「うぅっ! 茉希っ、わ、私がもっとちゃんと料理を勉強しとけば……! 不甲斐ない母親でごべぇんんん!!」
「あぁ、あぁもう分かったから……。ごめん、美保。俺はお袋を寝室に運ぶわ。また片付け頼めるか?」
「おうよ! 西宮さん、一緒に……」
「絶対にやめろ。触らせるな」
釘を刺された私は椅子に座って北条さんの帰りを待つ。
やがて帰ってきた北条さんが美保さんと片づけを交代する。
「西宮、風呂入ってきていいぞ」
「構わないわ。ゆっくり片付けなさい。終わるまで待つから」
「ごめん、言ってる意味がよく分からん」
「……? 片付けた後に一緒に入浴すればいいんじゃないかしら?」
「おい、美保いいのか?」
「いいんじゃね? アタシも昨日一ノ瀬と入ったぞ」
北条さんは少しの間考える。
「はぁ……まぁいいか。シャワーの使い方とか知らなさそうだし。変な事したら叩き出すからな」
「任せなさい。安心安全の西宮とは私の事よ」
***
脱衣所で服を脱ぎ、先に浴室へ入った北条さんに続く。
「とりあえず、うちの風呂は二人で入れるほど広くない。先にお前の背中流してやるから、終わったら風呂入れ。俺が体洗い終わったら出ろ」
「……でも、美保さんとはたまに一緒にお風呂に入ると聞いたわ」
「お前と密着したくない。以上」
北条さんはもっと体を舐め回すように見ると思ったのだが、意外にも反応は薄かった。
妹がよく侵入するようなので、他人の裸体を見るのには慣れているのだろうか。
椅子に座った私の後ろに北条さんが立ち、シャワーの準備をする。
「お前、髪は自分で洗えるよな……?」
「折角だからお願いしようかしら」
「あ、当店ではそういうサービスは無いので」
「髪を洗っている間なら私の体を好きにしていいわ」
「あ、結構です」
とことん対応の悪い店員だった。
髪を洗っている間、北条さんは何故家に来たのかを聞いてきた。
私はかいつまんで説明をする。
・東堂さんがバイト先で誕生日を、後輩経由で住所を聞いたこと
・気づいたのが誕生日当日だったこと
・3人の予定が合わなかったこと
「だから、プレゼントはそれぞれ持ってくるわ」
「なるほどな、これが後2回続くと。……泊る必要なくね?」
「ほら、髪洗い終わったわよ」
泊る必要は確かに無いが、掘り下げられると面倒なのでスルーした。
北条さんが私の背中を流し、特に何も起こらず体を洗い終える。
先にお風呂に浸かり、今度は私が質問をした。
「全然私に興味ないのね。胸には自信あったのだけど」
「興味っつーか、じろじろ見ないのはマナーだろ。……だから、今のお前はマナー違反な」
「いいじゃない。友人同士なのだし」
「たしかに。まぁ、そんなん言ってたら銭湯なんていけねぇしな」
あまりにもドライな対応をされ続けた私は段々と腹が立ってきた。
ここで色仕掛けの一つでもしなければ女が廃る。
私は北条さんに一泡吹かせてやろうと一人息巻いた。
髪を洗っている彼女の後ろにこっそりと近づき、偶然を装って生乳を当てようと勢いをつける。
「やんっ♡」
――ツルッ!!!!
あ、あら? 少し勢いが……
「ごふっ!!」
私が突き飛ばす形で鏡に額をぶつけた彼女が床に伸びる。
「あわわわわわわ……」
私は見事、彼女に一泡吹かせる事に成功した。
いや、上手い事を言ってる場合ではない。
その後、私はすぐに美保さんを呼んで処置して貰った。
***
翌日、西宮が帰った後の話である。
「そういえば、昨日はゴタゴタして結局アイツからのプレゼント貰ってねぇな。マジで何しに来たんだよ、アイツは」
「姉貴ー、なんか風呂場に変な箱置いてあるぞー」
妹は洗面所から謎の箱を持ってくる。
ホールのケーキが入るくらいのサイズの箱に高そうなリボンが巻いてある。
間違いなく、西宮が置いて行ったものだろう。
北条が躊躇なく箱を開けると中には下着と手紙が入っていた。
『さっきまで着けていたものです』
北条は手紙を握りつぶして、箱の蓋を閉める。
妹に箱を渡し、
「燃やせ」
そう一言だけ告げた。
後ろからは『なんじゃこりゃ! でっけぇぇえ!!』と聞こえてきた。
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