第45話 本日のゲスト


 ――『ピンポーン』


 一ノ瀬が帰った夕方ごろの事である。



「姉貴ー、なんか知らねぇ女きたー」


「ん。俺が出るわー」


 セールスならガンを飛ばせば帰るだろうと、北条が扉を開ける。


「私よ」


 扉を閉めて施錠した。


「なんか、変な宗教の勧誘だったわ」


「流石は姉貴! 瞬殺だったな」



 ――『ピンピンピンピンピンピンポーン』



 再度北条は扉を開けた。


「うるせぇ!!」


「私よ」


「だからなんだよ!!」


「話せば長くなるわ。まぁ、立ち話しもなんだし中でゆっくり話しましょう」


「それはお前側のセリフじゃねぇんだよ!」



 北条がツッコむ一瞬の隙をついた西宮がヌルっと侵入を試みる。

 ところが、寸での所で扉に何かが挟まった。



「……おい。そのキャリーケースはなんだ」


「お泊りセットよ」


「帰れ」


 万策尽きたかのように思えた西宮だが、ここで背後からまさかの助け舟が現れる。


「ん~? 茉希の声がする……誰? 茉希の友達?」


 仕事が終わり丁度、帰宅してきた北条の母親と鉢合わせになる。


「なっ、お袋……! やべっ……」


「あら? これは……コホン」



 今が好機と捉えた西宮は襟を正す。

 上品に微笑みながらも、凛とした佇まいで北条母の前に立った。



「ごきげんよう、お母上様。私は茉希さんの友人の西宮麗奈と申します。本日は遅ればせながら茉希さんのお誕生日を祝いに来させて頂きました」


 西宮は優雅にお辞儀をした後に、キャリーケースから高そうな茶菓子を出す。


「こちらはつまらないものですが、どうぞご家族の皆様で召し上がって下さい」


「ま、茉希にこんなお上品な友達がっ……うぅっ! こんな所じゃ悪いから、ささ上がって上がって!」


「それでは、お言葉に甘えさて頂きます(ニヤァ」


 北条の横を通り過ぎる時、西宮は上品とは程遠い邪悪な笑みを浮かべていた。



「……西宮。お前、あとでツラ貸せ」



 ***


 北条家への潜入に成功した西宮だったがお泊りへの第二関門が現れる。


「姉貴……誰? この女?」


「可愛らしい妹さんね。初めまして、西宮麗奈よ。よろしくね」


「……北条美保。よろしく」


 現在、警戒度MAXである。

 今度は北条がこれは好機と見て妹を焚きつける。


「こいつは俺のでなー! 今日はウチに泊ろうとしてるんだ」


「なっ……妹の許可無しに!? それは許されない!」



 激昂する妹に姉はうんうんと頷く。

 西宮は得意の似非笑いを顔に張り付かせ冷静に頭を回す。


(このはおそらく重度のシスコン。それならきっと北条さんはを言っていないはず……)


 ――『小賢しい女』西宮の本領発揮である。



「……あら、連絡を忘れていたなんてうっかりさんね。は」


 北条の表情が凍り付く。その素振りで西宮は確信を得た。


「マキにゃ……? なんだそのアホみてぇな呼び名は」


「ふふ。学校では周りからレイにゃとマキにゃなんて呼ばれてるのよ。写真見る?」


 西宮はコンカフェで隠し撮りしたマキにゃの写真をスマホに表示し、そのスマホを妹に渡そうとする。



 



「てぇい!」


「いてっ! ……姉貴?」



 北条はスマホを受け取ろうとした妹の手にチョップを入れる。



「あら、。妹に言い忘れてた連絡を思い出せたかしら??」


「……ッ! み、美保、スマン! こいつが泊りに来るの言い忘れてたわ!」


「し、親友同士で家に泊るなんてっ……! 不埒だ!!」


「いや、お前がまさに昨日してた事だろ……」



 姉の説明を以てしてもゴネる妹を見て、小賢しい女はまたも閃く。



「……美保さん、あなたは少し勘違いをしているわ。北条さんに聞かれると恥ずかしいからこっちに来てくれるかしら」


 怪訝そうな顔で西宮の元へ行った北条妹は程なくして喜色満面となる。

 お互い熱く手を交わした後、妹は姉に宣言した。



「姉貴! 西宮さんはめっちゃいい人だわ! 宿泊を許可する!」


「は、はぁ!? おい、こら西宮!! てめぇ妹に何吹き込んだ!?」


「そんな、吹き込むだなんて……私はただ本心を……」


「三文芝居はいいから言え」


「まぁまぁ姉貴。それ以上はやめてやれって。募る話は後にして飯にしようぜ!」


 晴れやかな気分のまま北条妹はリビングへ向かう。

 その姿を見届けて西宮は北条に向けて囁く。


「安心しなさい。妹さんが悲しむような事はしないわ。あなたに嫌われたくないもの」


「……一旦は信じてやる」



 西宮が妹に何を伝えたのかは分からない。

 ただ、北条は妹が厄介な奴に懐いてしまった事だけは分かった。


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