第41話 激寒プレイ


前回までのあらすじ:

 担任百合ひゃくあの名誉奪還の為に立ち上がった1-A。

 経験者でメンバーを固めた上、お荷物二人を補欠に入れるという姑息な手段を取る。

 オリエンテーション気分の他クラスを全力で狩りに行ったマジレス軍団の運命や如何いかに。




 ――球技大会当日。




「北条。実は僕テニス苦手なんだよね」


「お前、今それ言う!?」



 試合の直前にとっておきのサプライズ発表を受ける北条。

 何だったらさっきまで綺麗なフォームでラケットを振っていた東堂はなんだったのかと思いを馳せる。

 しかも、相手は運悪く経験者のチームだった。



「……なんで今まで黙ってたんだよ?」


「れ、麗奈にかっこいいとこ見せたくて……」



 アホの子であった。



 結局、対策を練る間もなく試合開始の時間になり二人はコートに入る。

 最初のサーブは東堂が行う事になった。

 サーブに入る前に東堂は小声で北条と会話する。



「……時に北条、スポーツマンシップってどう思う?」


「その話、今じゃなきゃダメか?」


「質問を変えるよ。全身全霊でやった結果なら、君は僕を見捨てないかな?」


「当たり前だろ」


「言質は取ったからね」



 サーブの位置についた東堂は子気味よくボールを地面に叩く。

 背中越しに聞こえる所作から、北条は未だに東堂がテニスが苦手である事が信じられずにいた。

 試合開始の合図が出され、背中越しの音が聞こえなくなった。その時、



 ――シュパンッッッ!!



 まさに一閃。


 お手本のような『サービスエース』に誰も動けなかった。

 それは審判も同様であった。


 東堂だけは一人、何事もなかったように次のサーブ位置につく。

 相手の選手がポジションにつき、少しの間だけ静寂が訪れる。



 ――シュルルッッッ!!



 今度は曲がった。


 相手の生徒が動こうとした、その更に先へ。

 結局、1ゲーム取るまでに東堂以外は誰も球に触れることはなかった。



「おい」


「北条が言いたいことは分かる」


「引くレベルで上手いんだが?」


「過去にね……東堂さんとテニスするのは面白くないって言われたのがトラウマで……」


「精神面の問題かよ!!」


「今もほら、見てごらんよ。相手チームを……」



 相手の生徒たちの目はうに死んでいた。

 球技大会に出る経験者というのは基本的にクラスでも期待されているものだ。


 それが現状、球に触れることすらも出来ない。

 出場した生徒はおろか、応援する生徒も気まずそうな雰囲気になっていた。

 そんな最中、2ゲーム目も全て東堂のリターンエースで終わる。



「これ以上、こんなえげつない事……僕には出来ないっ……!!」


「じゃあ手加減すれば?」


「過去に……東堂さんは手加減するからテニスを舐めてるって怒られたのがトラウマで……」


「めんどくさ!!」



 3ゲーム目、北条がアンダーサーブをした事で相手チームが見出したわずかな希望すら東堂は全力スマッシュで粉砕する。


 経験者が1ポイントも取れずに素人チームに負けている。

 これまさしく公開処刑。

 もはや相手のクラスメイトは見てはいけないもののように取り扱っていた。



「おい! なんか俺まで気まずくなってきたぞ!?」


「や、約束したじゃないか北条! 君は僕を見捨てないって!」



 東堂と北条の友情にヒビが入り始めたその時、



「たっ、大変、よ……、さっさと、試合を終わらせ、なさい……」



 汗だくになった西宮が何故かコートまで来ていた。

 おそらく体育館から走って来たのであろう。


 そこからの東堂は凄かった。

 相手側の心配をしていた彼女は何処へやら。

 自らの体裁の為に相手チームを完膚なきまで叩きのめした。



 ***


「麗奈、何かあったの?」


「フットサルの方でチームメンバーの一人がケガをしてしまったわ」


「おい、お前まさか……」


 すると、今度は南雲が走ってきた。


「大変~! 大変~!! バスケのメンバーの子の靴が……」




「……あのさ、お前らリザーブって言葉の意味知ってるか?」




 その後、体育館に強制送還された二人はしっかりとチームの足を引っ張る。

 とはいえ、それぞれの部の活躍は大きく、テニスにおける東堂のガン処理の甲斐もあって、見事1-Aは総合優勝を果たす事となった。



 これにより『百合先生ってやっぱり凄い!』



 と、なるはずもなく。

 むしろ、激寒マジレス軍団設立の容疑が掛けられた。



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