第40話 一つになった心
期末テストの結果が発表された。
中間考査とは違い、基準点を下回った教科は夏休み中に補習への参加が義務付けられている。
残念ながら補習となってしまった生徒たち、無事補習を回避した生徒でテンションに明暗が分かれた。
そんな状況の中、1-Aでは一学期最後のイベントである球技大会のメンバー決めを行っていた。
「ほらほら、みんなー! テストは終わったんだから、もうこっちに集中してー!」
「そうよ。そんな些事に一喜一憂してる暇はないわ」
本日、教壇の上にいらっしゃるのは補習マイスターの二名。
マイスターともなると、13教科中8教科の補習が確定している。
1、2教科でも悲しみに暮れる生徒が多い中、彼女たちの堂々としたその立ち振る舞いは生徒たちに勇気を与えた。
「今回の球技大会、勝ちに行くわ」
一応、名義上は
生徒たちの反応はまちまちで、やはりスポーツが苦手な生徒からの反応はあまり芳しくなかった。
「……優勝するとなんかあんのかよ?」
生徒が抱くもっともな疑問を北条が代弁する。
「茉希ちゃん、私達はこの勝利を百合先生に捧げようと思ってる」
「わ、私?」
教員用の席で静かに動向を見守っていた百合は突然名指しされて驚く。
「ええ。あの事件以来、巷では百合先生に対して心無い噂が流れてるわ。あなたは同じ1-Aのクラスメイトとして担任がこんな扱いを受けていることを許せるというの……!?」
「原因お前らじゃねぇか!!」
「よ、要するに火消しの為に球技大会優勝して、百合先生の汚名返上をしようと?」
「そうよ。百合先生がローターだけの女じゃないという事を学校に知らしめるのよ」
「……ちょっといい? それは優勝出来なかった場合、私はどうなるのかしら?」
「「………………」」
問いかけられた二人は百合の為に真剣に考える。
「まぁ……そうね。しばらくはローターだけの女って事になるわね」
「先生、負けた時の事を考えるのはやめよ?」
考えた結果、割と他人事だった。
***
球技大会で行われる競技は、
・バスケットボール(6人) :スタメン5人+リザーブ1人
・フットサル(6人) :スタメン5人+リザーブ1人
・ソフトバレー(4人) :スタメン4人
・ソフトボール(10人) :スタメン9人+リザーブ1人
・テニス(2人) :ダブルス
・卓球(2人) :ダブルス
上記6種目を学年混合で行い、総合点で優勝が決まるシステムだ。
「私達のクラスは都合のいい事に、バスケ部が5人、フットサル部が5人、バレー部が4人居るわ」
「ホントに都合いいな、おい」
「だからワタシがバスケのリザーブに、西宮さんがフットサルのリザーブに入るよ!」
「え? ゆーちゃん、バスケ出来たっけ!? 麗奈もフットサルのイメージは……」
「出来ないよー」
「出来る訳ないじゃない」
「貢献する気0かよ!!」
委員長と副委員長は顔を見合わせる。
そして二人はお互いに示し合わせたかのように頷いた後、クラスメイトたちに微笑みかけた。
「足を引っ張らないという事、それがワタシたちが出来る最大の貢献だよっ!」
「言ったでしょう? 勝ちに行くと。お荷物は要らないわ」
彼女たちはクラスのお荷物であるという事に一切の恥じらいが無い。
二人を眺める百合の視線は冷え冷えだった。
「そして、1-Aのリーサルウェポン東堂さんと北条さんでテニスのダブルスを、と思っているわ」
「……なんで僕と北条なの?」
「テニスといえばヤリサー。ヤリサーと言えばチャラ女。ここに金髪ギャルを加えれば薄い本の完成よ」
「おい、優勝どこ行った。あとテニスプレイヤーに謝れ」
――バゴォンッ!!!
轟音と共に西宮が教卓に沈む。
「って、言うのは冗談でー。ソフトボールは人数が多すぎて各クラスの戦力が測れないから、そこにあーちゃんを入れるのはリスクあるかなーって。卓球じゃないのは交互に打たなくていい分、あーちゃんの能力を十分に発揮出来るから!」
「結構考えあっての事だったんだな。……で、俺の方は?」
「その……悪気はないとは思うんだけど……まだ、茉希ちゃん苦手って人も居るっぽくて……」
「……お、おぅふ」
一学期終了間際でもそのイメージが払拭されることはなかった。
北条はなんとなく予想はしていたが、構えていも抉られた傷は深い。
卓球ダブルスは希望者が入り、余った人員はソフトボールに入った。
こうして全員の参加競技が決まり、いつの間にか復活していた西宮が総括を行う。
「全員よく聞きなさい。これは1-A初めての共同イベントよ。皆で力を合わせれば、失われた百合先生の信頼も取り戻せるわ」
西宮は凛とした佇まいでよく通る声を張る。
「――目指すは総合優勝よ」
この時、なんだかんだでバラバラだった1-Aの心は百合を含め一つになった。
『お前が言うな』 と。
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