第38話 着々と集まるバケモノたち side ???
「ねっ! 見て見てー、またあかりさん告白されてるよー」
「すごーい、これで入学してから何回目!?」
「まぁ、あれだけ容姿が整ってれば、ねー?」
遠巻きから声が聞こえてくる。
「あ、あかりさん! あなたの事がずっと好きでした! 私と付き合ってくれませんか?」
「ごめん。心に決めた人、居るから」
あっさりと簡潔に。それがお互い引きずらずに済む最適な方法だ。
パターン化した振り方で早々と身を翻す。
向かった先は、退屈そうに待つお嬢様の元。
「お待たせ?」
「終わったかしら? 待たせるなんて良い御身分ね」
相変わらず尊大な態度を見せる彼女に思わずに苦笑いをする。
「勝手に待ってたのによくそんなデカい面出来るよね」
「お黙りなさい。さっさと帰りますわよ、十河。」
***
「なんだかあなた今日、ものすごく機嫌が良さそうね?」
「わかる? 昨日かなり嬉しい出来事があってー!」
「……あなた、昨日は体調不良で学校を休んでたはずでしたわよね」
「初の誕生日凸待ち配信があったんだよ!? それは朝から高熱も出るよ!」
「あーはいはい、あなたは重病患者ですものね」
私、
会話のネタはもちろん、皆様ご存じ梅雨町リリィのお誕生日配信の話題である。
天才的なゲームセンスで容赦のない悪魔のようなプレイング、それに反して天使のような可愛らしい声。
そんなギャップから作り出される独特な配信スタイルは全世界の視聴者を魅了してやまない。
「……まさかとは思うけど、杏樹は配信見てなかったの?」
「ええ、いつやってたかも知りませんわ」
「信じられない!! 前々からバカだとは思ってたけど、ここまでバカだったなんて……」
「殴りますわよ」
あの伝説の配信をリアタイで見ていない人間と帰り道を共にしていたと思うと、私の片腹は痛くなった。
「せめてアーカイブだけでも見なよ? もちろん分かってるとは思うけど、全裸かつ正座で視聴ね」
「キモすぎますわ。どこに脱ぐ必要があるのかしら」
「そんなの先輩を浴びる為に当然の作法だよ!」
「ちょっと何言ってるのか良く分かりませんわ。Vtuberってあなたみたいなヤツばかりですの?」
彼女は学が無い上、育ちが悪い。それが分かるやりとりだった。
飽きれた私に対して、飽きれた様子の彼女が問いかける。
「……で? 配信で何かいい事でもあったのかしら?」
「配信も凄かったんだけど! 実は昨日、先輩から個通を貰って!!」
「ふーん……絶縁宣言でもされましたの?」
私は昨日のやりとりを思い出しながら彼女に言い聞かせた。
***
突然の先輩からの着信、まさか本当に先輩からの通話が来るとは思っていなかった私は急いで通話に出た。
もちろん全裸である。
「……月ちゃん。今日は君に話がある」
そう前置きをした先輩は少し呼吸を置いた。
配信じゃない先輩の声。独り占めしてると思うと……ヤバい鼻血出そう。
「……月ちゃんがワタシに対して抱いてる感情は、恋じゃない」
「えっ…………」
なんの脈絡もなくそれっぽい事を言い始めた先輩。
思わず言葉が出なくなってしまうが、すぐに私は気を取り直す。
「知ってますよ??」
「どぅえぇっ!?」
謎の悲鳴をあげる先輩は一体何を伝えたかったのだろう?
理解力のない私を許して欲しい。
「
「……結果、ストーカーってこと?」
「違いますっ!
「あ、ごめん、全然ムリかも」
「せんぱぁい!
「はぁ!? えっ? 通話混線してる?? 誰と話してるの!?」
***
「って感じで~♪ きゃー!」
「きゃー、じゃないですわ。多分、一番叫びたいのは梅雨町さんでしてよ」
恥ずかしかったけど、勇気を出して告白した甲斐があった。
住所を教えてもらう前に通話は切られてしまったけど、一先ず気持ちは伝わったので良しとしよう。
「あなた……もし、梅雨町さんがリアルで好きな方とか居たらどうしますの……」
「え? 全然〇すよ?」
「随分と自分勝手な奴隷ですわね!」
万が一にもありえないが、仮にそんな事が起きるのであればそれは間違いなく悪女である。
先輩に嫌がらせをする人間など断固として許せるはずがない。
「でも、まぁ……梅雨町さんの住所が特定されてなくて本当に良かったですわ」
「実は、そうでもない」
「……え?」
「TwiXの呟きの内容からある程度エリアは絞り込めてる。そして、呟きの投稿時間や動画での発言から学生である可能性が極めて高い。私の解析では丸井百合ヶ咲あたりが怪しいんじゃないかと思ってる」
「あなた、進路希望にはネット特定班と書いた方がいいわね」
「ちなみにその日の声質、配信の休みから生理の周期もだいたい把握してる」
「キモすぎですわ」
今年、3年生である私達は来年の進路を決めなければならない。
配信業がある私は配信に専念しても良い。
しかし、仮にもし先輩が丸女の学生だったら?
その場合、私は丸女への進学を選ぶだろう。
――まぁこれは、あくまでも仮定の話ではあるが。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます