第37話 単凸 side 南雲 優
今日、誕生日を迎えたワタシは3人からのプレゼントを贈ってもらった。
中身に入っていたのはかわいいバスボム。
ワタシの為にみんなで相談して選んでくれたというのはすごくうれしい!
代表して渡しに来た西宮さんの『今度一緒に入りましょう』という言葉だけは本当に余計だった。
あーちゃんが毎年贈ってくれたお花同様に、しっかり処理を施して大切に保管庫に閉まっておこう。
***
自宅に帰ったワタシは寝室に荷物を置いて服を着替える。
そして、みんなからもらった幸せの余韻に浸りながら配信用に借りている隣の部屋へと向かった。
今日は初の誕生日凸待ち配信というものを行う。
ゲームのプレイングをウリにしているワタシからすると、本音としてはあまり乗り気じゃ無い。
しかし、登録者数が増えてからはトーク配信のリクエストも多くなってしまった。
企業に所属しない個人勢のワタシは頑なな態度を貫いても良いのだが、各種大会等の事を考えるとある程度の営業も必要だった。
今回は事前連絡で多少打ち合わせをしてあるので5、6人は来てくれる予定なのだが、これは果たして凸待ちと言っていいのだろうか?
正直わからない。まぁ、放送事故よりはマシだろう。
半分は出来レース、あと半分は出たとこ勝負。
もう一度、各種設定と進行を確認したワタシは配信開始を押した――
「どうもみんな、こんばんわー。梅雨町リリィです。超気分乗らないけどどーしよ? ホントにやるのコレ?」
視聴者は8000人ほど。ゲーム配信の時より人多くない?
ワタシの挨拶を皮切りにたくさんのコメントが流れる。
***
その後、コラボの多かったVtuberや、大会で同じチームになったストリーマーの方々が来てくれたため、目標であった10人はあっさり達成した。
予定より短めだが今日は配信をここまでとしよう。
ワタシは締めに入る前に投げ銭コメを読み上げる。
「梅雨町単推しさん、スーパーチアーありがと! 2,438さん、スーパーチアーありがとー! 丸っ…………」
――その時、ワタシの目にヤツの名前が入った。
『
忘れていた訳では無い。ただ、来ないのであれば早めに配信を切ろうと思っていたのだが……。
配信のラストに大人気Vtuberの彼女が登場し、コメ欄は大いに沸く。
『るなりりてぇてぇ』だの、『りりるなしか認めん』だの気持ちの悪いコメントが流れている。
「……月ちゃん、スーパーチアーありがとー。ふーん、君は文字で済ませちゃうのかなー?」
このタイミングで現れたらそのまま帰す訳には行かなくなったので、ワタシは通話を促した。
おそらくはこれは彼女の計算だろう。
トリで自分を持って来てワタシとの仲をアピールしようとしている。どこまでもいけ好かない女だ。
「先ぱぁい! お誕生日、おめでとうございますっ!!」
「ありがとー。もしかしてずっと配信見てたの?」
「はいっ! 今日はこの日の為にお休み貰ってます!!」
「え、こわー。ワタシ、月ちゃんのファンから怒られない?」
「あ、そういう事する人はブロックするんで大丈夫です」
コメント欄はウケているが割とマジのトーンだった。
その後、少しだけトークを挟んでワタシは早々にぶぶ漬けを出す。
「月ちゃん。ワタシ、今日はまだバースデーソング聞いてないんだー。だから、月ちゃんの歌でお願いしたいなぁー」
適当に歌でも歌わせて帰らせよう。
「え! 歌います、歌わせて下さいっ! それでは、お耳汚しですが……ハッピーバースデートゥーユー♪ ~~♪」
無駄に上手かった。
それもそのはず、この女は企業所属のVtuberでCDまで出している程の実力なのだ。
「やっぱり歌上手だねー……ワタシ、感動しちゃった。来年もまた聞かせてくれるかな?」
(来年もまた~ ⇒ 今日はもう結構です)
「ぜひぜひっ! また呼んでください!」
「じゃあ、今日は来てくれてありがとねー」
これで無事おわ――
「こちらこそー! ではでは、またあとで……♡」
通話を切る丸井月。
……最悪。爆弾を残して帰っていった。
てぇてぇアピールに色めき立つコメ欄。気づけば視聴者数は10,000人を超えていた。
「……はい! じゃあ、月ちゃんも待ってるし今日の配信はここまでかな。来てくれたみんなホントにありがとー! 高評価、グッドボタン押してってねー。それでは、また次回の配信でー!」
配信終了のボタンを押し、しばらく天を仰ぐ。
精神ポイントが少し回復したところでTwiXを覗きに行くと、案の定『るなりり』がトレンド入りしていた。
コメント等を見る気力は無かったのでワタシはアプリをそっと閉じる。
どうにかして彼女の魔の手から逃れたいのだが、ここまで話題になってしまった以上それはもう不可能に近いだろう。
無理やり離れようものなら炎上騒動も大いにあり得る。
つまりは、視聴者もワタシも彼女の手の平で踊らされている。そういうことだ。
ディスコを確認すると当然、彼女からのチャットが来ていた。
内容自体はいつもと変わらずゴミみたいな内容なのでスルー安定。
……のはずだったのだが、この時のワタシはどうにかしていた。
おそらくは、3人からのプレゼントを貰って気持ちがふわふわしていた事、直近で茉希ちゃんから助言を貰った事など。
様々な要因が絡み合った結果、ワタシは丸井月に個人通話をしていた。
「――ッ! せ、せんぱい!? ホントに個通してくれるなんて……!」
1コールで出てきた彼女は感極まっていた。
気持ち悪くて鳥肌が立つ。
「……月ちゃん。今日は君に話がある」
頭に浮かぶのは茉希ちゃんとのデート。
あの時の名言をもう一度思い出し、ワタシは言葉に出した。
「……月ちゃんがワタシに対して抱いてる感情は、恋じゃない」
「えっ…………」
言葉を失う彼女。ワタシは一人頷き、言葉が届いたことを確信した。
「――知ってますよ??」
この時のワタシは、それっぽい事が言いたくて完全に調子に乗っていた。
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