第26話 タッグマッチ side 百合 聡美


「古文なんてさー、将来生きるのになんの役にたつのー?」


「シバくぞ」



 いよいよ明日が追試で本日が勉強会の最終日だ。

 バイトがある東堂さん以外は全員参加している。

 東堂さん不在という事もあって、南雲さんは完全に集中力を欠いていた。



 一方、


「あぁ……あ"ぁ……もう駄目……」


 普段から勉強をしていなかったからか西宮さんの疲労も限界に達していた。


「誰かの……胸を揉みしだきたい!」


 違ったらしい。


「それで集中出来るなら私の胸でも揉むー?」


「ちょ、ちょっと万里先生!」



 万里先生は豊満な胸を惜しみなく差し出す。

 この人は少し奔放な所があって危なっかしい。

 しかし、意外な事に西宮さんはその申し出をやんわりと断った。



「お心遣いは嬉しいのだけれど、どうせなら私は嫌がってる相手の方が燃えるわ」


「あー、私もわかるー」



 さ、最悪だ。万里先生と西宮さんは波長が合うらしい。

 二人はギラギラとした目で獲物を探し始める。



「おい、こっち見んな」


「前々から思っていたのだけど、あなたは叩いたらいい音が鳴りそうね」


「私も北条さんは絶対ネコだと思うのよねー」


「はわわわわわ……」


「バカ! その手の動き止めろ! 寄ってくんな!」


「ふふふ、どんな音を聞かせてくれるのかしら……」


「はーい。シワになっちゃうからシャツは脱いでねー」



 手をワキワキと怪しく動かす二人はジリジリと北条さんに迫る。

 震える私の背中を教師としての矜持が後押しする。

 凶行を止めようと私は必死に北条さんと二人の間に割って入る。



「や、やめて下さい! 北条さんは嫌がってるじゃないですか!」


「あ、聡美ちゃんが代わりにって流れかー」


「あら? 本当? じゃあ遠慮なく」


「へ?」



 突如、変わった矛先に私は対応出来る訳もなく――



「……はっ、ぁん! ……ぅうん! くぁ……ん……!!」



 思いっきり身体をまさぐられた。

 息を切らしながらへたり込む私を見て北条さんは顔を青くする。

 最後に生徒が守れてよかった……。


 私は涙を流しながら意識を手放した。



 ***


「「…………」」



 凶悪犯の二人は気を失った百合をベッドへ運んで寝かせた。



「ひ、人の所業じゃねぇよ……」


 恐怖に震える北条を傍目に二人は何食わぬ顔で勉強会を再開しようとする。


「なんで真顔で勉強に戻れるんだよ……怖えぇよ……」


「う、うるさいわね。あんなの見せられたら真顔にもなるわよ……!」


「そうだねー……凄かった……。あれ以上やってたら止まらなくなってたよ」



 百合の感触と反応を思い出す二人は頬を赤らめ口角を上げる。



「感触も感度も凄かったわ、あれこそまさに……」


「涙目で頬を赤らめるあの表情、あれこそまさに……」



 ――セクハラ界の至高



 恍惚とした表情で手を卑猥に動かす二人。


 こいつらはマズい。

 今度は自分が百合を守る。北条は決意と覚悟の拳を握りしめた。



 ***


「あ、先生。大丈夫ですか?」



「……? 私は、寝てたの? 何をしてたんだっけ……」


 どうやら北条さんがいつの間にか寝てしまった私の看病をしてくれていたようだ。


「あー! ……なんか疲れて寝ちゃってたみたいで! ベッドに運びました!!」



 隣のベッドで気持ちよく寝ている南雲さん、何故か顔面から机に沈んでいる万里先生と西宮さん。



「ありがとうね、北条さん。……二人は机で寝てるけどいいの?」


「あー! 大丈夫です! なんか、二人は机の匂いが落ち着くみたいな事言ってたんで!!」


「そう……みんな勉強で疲れてたのね。北条さんもあまり無理しないでね」


「先生こそ……は大事にしてくださいね……」



 私の体調を気遣ってくれた北条さんは泣きそうな目で手を握りしめていた。

 いつの間にか乱れていた服装を整えながら私は彼女に感謝の言葉を返した。



 ***


 尚、百合の犠牲も甲斐あって、二人の追試は余裕で合格だった。



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