第25話 二人の共通点


「放課後の保健室でお勉強って淫靡な響きよね」


「シバくぞ」



 悲劇から一夜明け、保健室ではつつがなく勉強会は進行していた。

 本日の参加者は監督の万里と、講師の東堂、参加希望者の北条、そして追試者2名。

 内容としては、補習用のプリントを使って北条を含む3人がそれぞれ学習を行うというものだった。


 分からない部分は東堂が教え、資料や解説が必要な場合は万里が指導に入った。

 全員の脳裏に過る『留年』の2文字から、割とガチの勉強会である。


 現在、万里がミニテストを採点しているので4人は息抜きに雑談していた。



「東堂、お前ホント頭いいな。テスト何点くらいだったんだ?」


「今回は1300点だったよ」


「……13教科だったよな?」


「はぁ……こういう自己中心的な人が居るから平均点が上がるのね」


「あーちゃんのせいするな! 自分の勉強不足じゃん!」


「それはそうなんだけど、お前に発言権はない」



 一応、満遍なく平均点以上を取っていた勤勉な北条には発言権があった。



「あ! てか、今思い出したわ! 西宮がいつだったかに意味深に濁して言ってたウチの学園に来た理由ってまさか……!」


「あー、そっかー、ウチの学園まるじょって鉛筆握れれば合格出来るって言われてるもんねー」


「そうよ、それなのにこんなにレベルが高いなんて聞いてないわ」


「言うほど高くないし、まだ一年の中間考査だよ……?」



 しかし、絶望の色を顔に滲ませる追試者2名はこの後、さらなる衝撃の事実を突きつけられる事となる。



 ***


 休憩が終わり、東堂が南雲に、万里が北条と西宮のサポートについた。


「ゆーちゃんの課題は暗記だね。おそらく、教科担当の先生から貰ったこのプリントはかなり追試内容に近いと思うよ」


「ほうほう! つまり?」


「…………ひたすら覚えるしかないって事だね」


「ほーりーしっと!」



 一言に暗記科目と言っても、覚え方にも人それぞれある。

 ただ、覚えろというのも酷なもので、なんとか良い方法がないかと東堂は探す。



「ゆーちゃんってさ。別に暗記するのとか苦手では無かったよね」


「いやー、記憶領域をこんなムダなことに割きたくないっていう防衛反応かなぁ?」


「ふむふむ……なるほど? じゃあさ、試してみた事があるんだけど」



 東堂は古文の単語を幾つか選んでプリントを作り南雲に暗記させてみる。


 ――当然、結果は壊滅的だった。



 しかし、東堂は別の単語を選びもう一度同じことをさせる。

 さっきと違う点はプリントを渡す際に東堂は南雲の耳元で何かを囁いた事だった。


 ――結果は全問正解。



「ゆーちゃん、もしかしてふざけてる?」


「なんで!? 全問正解したのにー!」


 さっそく結果を出した敏腕講師の東堂はおこである。

 東堂が唱えた頭の良くなる魔法の呪文、


 それは、


「ほら、ほら! あーちゃん! ワタシ頑張ったよ! ご褒美にチューしてー♡」


 南雲は目を瞑り顎を上げ、唇を突き出す。

 いつぞやのアレ待ちの顔をした。


「おでこって言ったよね? もうちょっと顎下げて?」


 東堂はおでこに掛かった髪を軽く上げてから短く口付けをする。

 歓喜の悲鳴を上げた南雲はテンション爆上がりだった。


 そう、南雲が暗記出来ない理由。

 それはシンプルにやる気がないだけだった。



 ***


「あいつら真面目にやってんのか?」


 北条は近くの座席で奇声を発しながら暴れる南雲を怪訝そうに見つめていた。


「まったく、真剣やって欲しいものね。先生、私の方はどうかしら」


「うーん……、もしかして君ってさー……」



 思い当たる節があった万里は即席でテストの解説付きのプリントを作りそれを読ませる。

 その後、確認テストさせると飛躍的に点数が上がっていた。



「マジかよ、すげー! やっぱ教師って教えるの上手いんですね!」


「いやぁ、これはねー……」


 万里は北条に点数が上がったからくりを説明する。



 そう、西宮の点数が低い理由。

 それはシンプルにテスト勉強をしていないだけだった。



「……お前が一番真剣にやれ!!」



 保健室に北条の渾身の台パンが響き渡った。



 ***


 総括すると、赤点は二人の怠慢が原因だった。



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