第24話 レッドポイント


「んー! よっしゃ! これで中間考査は終わったな!」


 無事にテストが終わってテンションの上がった北条は前の3人に声を掛ける。

 答案用紙の返却は既に終わり、今日は百合ひゃくあから順位表も配られた。

 テスト勉強から解放された教室全体の雰囲気も浮ついている。


「みんなお疲れ。これで休日は麗奈と……ってあれ? ゆーちゃんどうしたの?」


 北条からの呼びかけに振り返った東堂は後ろの席にいる南雲の異変に気付く。

 この時、北条も前の座席の西宮が微動だにしていない事に気付いた。


「おい、西宮。今回は点数勝負とかしねぇのか?」


 声を掛けた数秒後、


 ――ドンッ!


 南雲と西宮は同時にゆっくりと頭から机にダイブした。

 声を掛けた二人は慌てて倒れた二人の容態を確認する。



「「し、死んでる……!」」



 入学一ヶ月。あまりにも短い学生生活だった。



 ***


「……先生、二人は助かりますか?」


「うーん……ちょっと重症みたいだねー……」


 保健室に搬送された二人は養護教諭の万里愛衣ばんりあいしていた。


 病名、赤点である。

 学園まるじょの各種テストは平均点の半分以下が赤点となる。

 赤点を取った生徒は1週間ほど後に追試を行わなければならない。

 一応、追試内容は易しく設定されているが、万が一落とすような事があれば病状は留年へと悪化する。


 全13教科中、

 南雲の赤点は3教科。古典、世界史、英語。

 西宮の赤点は12教科。保健以外の全教科である。



「お前さぁ……」


「何よ。罵りなさいよ。ゴミだのカスだの言えばいいじゃない」


 あまりの凄惨な状況に流石の西宮も卑屈になっていた。


「こんなのあんまりよ……体力測定もE判定、テストも赤点。これじゃあまるで私、ポンコツみたいじゃない!」


「いや、ポンコツなんよ。みたいとかつけんな。おこがましい」



 しかし、西宮の唯一の希望は全教科がギリギリの赤点だった事である。

 対する南雲はほとんどの教科が赤点よりも少し高めの点数で、理数系だけは80点ほどの点数を取っていた。



 だが、しかし。


 古典:5点、世界史:3点、英語:8点


「わたふぁー」


「ゆーちゃんしっかりして! ちょっと一回状況整理しよ!?」



 特定の教科の点数があまりにも壊滅的だった南雲は言語中枢にダメージを受けていた。

 古典は選択問題、英語は単語問題が当たっていただけである。



「でも見てゆーちゃん! 『しょかつこうめい』は当たってるよ!」


「おぅ……こーめい、まいふれんず……」


 世界史で唯一正解していたのは三国志好きの先生が入れたボーナス問題。

 漢字じゃなかったので-2点されていた。



「これは休日どころか平日も遊んでる場合じゃないよね……。誰かの家に集まって勉強会とかした方がいいのかな」


「おうちデート!? したい!」


「私は自分の家と友人の家では絶対に勉強しないと決めているの」


「お前らあんま調子乗んな?」



 そんな悩める4人を傍で見ていた万里が助け舟を出す。



「放課後なら私が教えようか? 保健室も使っていいし。何だったら聡美ちゃんも呼んでみたら?」


「いいんですか!? すごく助かります! 聡美ちゃんが誰かは知らんけど」


「百合先生だよ……」



 ***


 その後、二人は万里の助言に従い、職員室まで行って百合に勉強会への参加をお願いした。

 百合はこれを快諾したが、この時二人は百合の机に置いてあった大量の頭痛薬を見て真面目に勉強する事を心の中で誓った。


 当然、予定されていたWデート(?)は延期せざるを得なくなる。

 代わりに突然の学力強化週間が始まった。



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