第21話 『被害者』の被害者
4月下旬となっても朝の気温は未だ低く、通学路をあるく東堂と南雲は身を寄せて登校する。
先ほどまでは二人の間で腕を組もうとする南雲と躱す東堂の静かな戦いが繰り広げられていた。
最終的には東堂が諦め、現在は腕を組んでいる。
「……でね、そうやってね? ワタシにつきまとってくる女が居て……あーちゃんはどう思う?」
「うーん、僕もよく似た経験をしたことあるよ」
「あーちゃんも!? 安心して! あーちゃんはワタシが守ってあげるから!」
「それは心強いね」
頼もしく胸を張る幼馴染を見て目頭が熱くなる東堂であった。
東堂達は現在、通学路をやや遠回りして駅に来ていた。
その目的は、
「あら? 珍しいわね」
「お、おはよう、麗奈」
「ごき……おはよう、でいいわね」
送迎車から降りてくる西宮の姿をみた東堂は南雲と組んでいた腕をスッと外す。
それが不服だったのか、むくれた南雲は西宮をひと睨みする。
「おはよ。西宮さん」
「もしかして私と登校したくて待っていたの? いい心がけね」
「別に西宮さんを待ってたわけじゃない」
「うーす。おはよ、朝からギスってんの胃がもたれるわ」
程なくして北条が駅から姿を現す。
朝は弱いのか、いつも以上に目つきが悪い北条を通行人が避けて通る。
「おはよう、北条。わざわざ時間を合わせて貰ってすまないね」
「別に。お前らこそ遠回りしてまで物好きだな」
「ゆーちゃんがね、みんなで一緒に登校しよ! ってさ」
「ま、いいんじゃねーの」
そういう北条の耳は少し赤くなっていた。
「どうしたにゃ? 照れてるのかにゃ?」
「次、その語尾使ったらお前の右乳をもぎ取る」
「ふふっ……南雲さんがそれを許すかしら? 昨日好感度をMAXまで上げた彼女は私の傀儡よ」
「まだ寝てる? 左乳もいだら起きるかな?」
こうして、姦しい4人はこの日から共に歩いて登校をする事となる。
きっかけを作ってくれた南雲に西宮は心の中でお礼を言った。
***
「そういえば、あなた達にプレゼントがあるわ」
西宮がゴソゴソとバッグを漁り、出てきた紙袋を東堂と北条に渡す。
南雲はなんとなくプレゼントの内容を察していた。
「ありがとう! 麗奈、開けていいかな?」
「ええ、たいしたものじゃないけれど。ありがたく受け取りなさい」
「しょーもないジョークグッズとかじゃねぇだろうな……」
西宮のプレゼントという事で感激する東堂と怪訝そうに袋を透かす北条は両極端であった。
「あれって、西宮さんは記念とか言ってなかった? 二人に渡したら意味なくない? 別にどーでもいいけど」
「ええ。あれはあなたとの記念よ。だから買ってきたほうのプレゼントは――」
「ブフッッッ!!」
「ん? なんだこれ? Vtuberとかのキーホルダーか。案外普通のもん入ってたな」
「えぇーと、これって……」
予想していたものとは全く別のものが出てきた南雲は思いっきり吹いた。
袋から出てきたのは、
――『梅雨町リリィ』のキーホルダーだった。
『梅雨町リリィ』、それ即ち南雲優の活動名義である。
「そんなに驚く事? 南雲さんはやっぱり苦手なのかしら」
「い、いやぁ? そういう訳じゃないけど……」
どうせならあっちをワタシにくれれば良かったのに、そう思わずには居られなかった。
しかしその時、南雲に稲妻が走る。
「どうしたの東堂さん? 着け方が分からないなら私がつけてあげましょうか?」
着けるのを渋っていた東堂に西宮はしたり顔で近づく。
「う、うーん……じゃあ着けれる勇気が無いから、麗奈に着けて貰おうかな……」
「ふふ、任せなさい。昨日覚えたばかりだけど、2度と外せなくしてあげるわ」
「呪いの装備じゃねぇか」
何も知らない北条の言い得て妙な発言に東堂は力なく笑う。
一方、その頃南雲は歓喜に震えていた。
「は、はわぁ……あーちゃんが私のググ、グッズをその身に――死ねる(パタッ」
結局、この日は突然倒れた南雲を搬送する為に西宮が呼んだ車で登校した。
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