第18話 金持ちの遊び


「うーん……、やっぱりマキにゃはちょっと表情硬いなぁ。どうアドバイスしたらいいのかなぁ……」


「すいません……みゃーさん苦労掛けます……」



 コンカフェ『りりあん☆がーてん』では北条ことマキにゃと、研修担当の三野宮みゃーさんは悩んでいた。

 ちなみに北条の源氏名は店長がつけたらしい。



「そうだなぁ、もしかしたら難しく考えすぎなんじゃないかな?」


「どういうことですか?」


「一回さ、北条さんが想像する飛び切り可愛いマキにゃになってみない? そうしたら何かが掴めるかもしれないよ?」


「なるほど……たしかに」


「ほら! 丁度良く、お嬢様達が来たみたい! もう思い切ってブッこんでみなよ!」


 決意を固めた北条はゆっくり息を吸い扉へ向かう、頭の中では自らの殻を破り想像する理想のマキにゃを纏う。



 ほんの少しの勇気、そして飛び切りの笑顔を添えてお嬢様を迎え入れ――



「――お帰りにゃさい☆ お嬢さ、マ"ァァァーーーーッ!?」



 ***



「……殺せ」


「どうしたにゃマキにゃ? 元気ないのかにゃ?」

 

 ネコミミメイド姿の北条がついた席では西宮が煽り散らかしてた。

 手が出せないのを良い事にねこじゃらしで頬をビンタしている。


「えー! マキにゃ可愛いー! チェキ撮ろー!」


 普段は見れない北条の姿に南雲も大興奮である。



「あまりマキにゃを虐めないであげてくれ……彼女は情緒不安定でね……」


 するとここで執事服の東堂ことアキラが傷心中の北条の救助にやってくる。


「きゃーーーっ!! あーちゃんカッコいい!!!」


 東堂の登場で南雲はテンションMAXを振り切っていた。



「せっかくの初風俗なのだから定番のアレをやりたいわね」


「アレってなにー?」


「脱衣じゃんけんよ」


「いいね、採用!」


「『採用!』 じゃねぇよ!! そもそも風俗じゃねぇから、ここ!!」


「ほらほら! あーちゃんとマキにゃでじゃんけんしてー」


「相手は僕!? 君たちは悪魔かい?」


「めんどくさいわね。いいからさっさと脱ぎなさい」



 脱衣を強要する最低な友情がここにはあった。

 そんな暴君二人の様子を見て店長が急ぎ姿を現す。



「お、お嬢様方! あまりわがままを言われては困ります! ここは淑女の社交場、けっしていかがわしいお店ではございません!」


 自ら身を挺して庇う店長の姿に従業員は涙した。

 熱い結束を結んだ従業員と店長の前にスッと何かが放られる。


「こ、これは……!」



 ――西銀エクストラブラックカード。通称、神のカードである。



「金ならあるわ」


 西宮は優雅に脚を組み直し、穏やかに微笑む。

 その姿は敬称としてのお嬢様ではなく、モノホンのお嬢様であった。



 しかし、店長は臆せず西宮モノホンと視線を交わす。


「お嬢様、冗談はよして下さいませ。私が金に踊るとでも? ただ一応、本人たちに何枚までならいけるかは確認してみます!」


「踊ってんじゃねぇか!! 1枚たりともいかねぇよ!!」


「はぁ……、じゃあ脱ぐのはあーちゃんだけかぁ……」


「なんで僕は脱ぐ前提なの!?」




 アットホームで明るい健全な職場『りりあん☆がーてん』は風営法の限界に挑戦しようとしていた。



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