第17話 単推し side 西宮 麗奈


 南雲さんとは学級委員をやる事になって以降、それなりに接点が出来た。

 しかし、未だに彼女の行動原理はまったく理解出来ない。



 とある日の放課後――



「西宮さんちょっとツラ貸し……あ、間違えた。この後、時間あるー?」


 会話の導入に非常に不安を感じたのだけれど。

 彼女から私を何かに誘うというのは珍しい。


「……特に予定はないけど、何かしら?」


「ちょっと一緒に行きたいところがあるんだけど、どうかなーって」


「場所にもよるけど、どこへ行くつもり?」


「ここなんだけど……」



 そう言いながら差し出した彼女のスマホには彼女のイメージとは掛け離れた場所が表示されていた。

 正直、この南雲優という女性は東堂さんのストーカーという事以外は謎に包まれている部分が多い。

 この機会に理解を深めるのは丁度いいだろう。



「付き合ってあげてもいいわ」


「なんか上から目線ー まぁいいや。レッツごー!」


 そんな経緯いきさつがあり、二人サシで出かけることとなった。



 ***


「これなんてどうかな?」


「そんな本格的なやつじゃなくていいわ。あなたの用途ならこっちでいいんじゃないかしら」


 私は放課後に友人と買い物に行くという青春っぽい事は初めての経験だった。

 そんな初体験の中で私達が選んでいる商品、それは――


 ――『手錠』である。


 もちろん、手錠といってもジョークグッズのたぐいだ。

 現在、私達は総合ディスカウントストアで買い物をしている。


「ふーん、流石セク宮と呼ばれてるだけの事はあるね! こっちにしよー」


「ちょっと待ちなさい。セク宮は初耳なんだけれど?」


 彼女は私の質問には耳を貸さずレジへと向かう。



 取り残された私は暇つぶしに店内を見て回ることにした。

 普段、外出をしてまで買い物をしない私としてはどれも珍しいものばかりだ。


(あら?これは……)


 ふと目に留まったアクリルキーホルダーは、私がよく見る配信者Vtuberの限定コラボ品だった。

 別に推したりしてる訳でもないが、今日の記念には丁度良いかもしれない。

 そう思った私はそれを手に取りレジへ進んだ。



 その後、店の出口付近で待ち合わせをしていた南雲さんと合流する。


「待たせたわね。じゃあ、行きましょうか」


 そして私達はそこからへと向かうのであった。



 ***


 表の通りからは外れたやや薄暗い雰囲気の道路を歩いてる私は沈黙を嫌い、彼女に会話を振る。


「南雲さん。私、放課後に友人と買い物をするのが初めてだったの」


「へー、お嬢様学校じゃなさそうだもんね」


「そうね。だから記念にのキーホルダーを買ったのだけれど。受け取ってくれるかしら?」


「うーん……いいけど。それってフツーもっと仲のいい子どうしがやるやつだと思うよ?」


 難色を示した彼女は渋々といった形で受け取る。



「あら? 私がやってるゲームでは大体むせび泣いて喜んでくれるのだけど」


「多分ワタシは攻略キャラじゃないよ。……とりあえず、バッグに付けとけばいい?」



 そう言いながらレジ袋からキーホルダーを出した彼女は固まる。



「……? どうかしたのかしら?」


「い、いやぁ……? 西宮さんってこういうの興味あるんだなぁって思って……。そのー……推してたりするんだ?」


 彼女はわなわなと震え、虚ろな目でぎこちなく口角を上げる。

 もしかするとオタクコンテンツに忌避を示すタイプなのだろうか。

 原因は分からないが私が彼女の地雷を踏んだことは察した。


「い、いえ、別に推しとかではないけど……」


 助けも来ないであろう暗い路地裏、入学初日を彷彿とさせる彼女の状況。

 もし今の私の推しを敢えて言うなら、


(恐怖単推し。恐怖しか勝たん!)


 いや、ふざけている場合ではない。


「き、気に入らなかったら捨てて頂戴。別にほんの気まぐれだから……!」


「わ、ワタシもそこまで鬼じゃないよ! 初めての記念なんだよね……?」


「ええ……」


「くぅっ……ええい!」



 そう言って何故か勢いをつけた彼女はバッグにキーホルダーを着ける。



「これでいいでよね! ほら西宮さんもつけて! それともワタシがつけようか?」


「そ、そうね。着け方が分からないからそうしてくれるかしら?」



 ほどなくして彼女は私のバッグにキーホルダーを着けてくれた。



「ありがとう。……家に帰ったら外してくれればいいから」


「もー! せっかくバッグにつけたんだから大切にするよ! 別に……外す理由とかないから!」



 彼女がそうなった理由を聞きたい気持ちはあったが、私はそれ以上の事を聞くのをやめた。



「ほら! 西宮さん着いたよ! ここからは切り替えていこ!」


「お帰りにゃさい☆ お嬢さ、マ"ァァァーーーーッ!?」


「あら?」


 私達の目的地ではとても滑稽な格好した北条さんがお出迎えをしてくれた。



 そうね、せっかくだから楽しみましょうか。



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