第13話 特攻の茉希 side 北条 茉希
ドタバタとした入学から一週間ほど経った。
放課後、ほとんどの新入生は現在部活探し中である。
そんな中、帰宅部の俺はバイト探しをしていた。
生活するのに困っている訳ではないが、自分の小遣いくらいは自分で稼ぎたいという気持ちがあった。
家事の手伝いもしたいのであまり多くの時間は割けないが、『仕事』という経験には興味がある。
個人的な要望として、
・ある程度キツくて、やりがいのあること
・俺の容姿でも受け入れてくれるとこ
・将来社会に出た時、関わりが薄そうな分野
以上の要件を満たす職場を希望していた。
そしてそれがここ、『りりあん☆がーてん』だった。
所謂、コンセプトカフェというやつらしい。
『髪型・ピアス自由! 高校生も沢山働いてます! アットホームで明るい健全な職場です!!』
そこはかとなく闇の匂いを感じたが、これも経験と割り切ることにした。
面接も怖いくらい簡単に終わり、とんとん拍子で本日の初出勤となった訳だが――
「北条……? どうして君がここに?」
何故か研修には東堂も居た。
彼女は何かに気づいたかのように目を見開く。
「……! もしかしてパパ活……」
「……あのさ、お前もここで働くんだよな? 思っても口に出すな?」
「安心してくれ、僕にそういう目的はないから」
「俺にもねぇよ!」
予期せぬ顔なじみと仕事をする事になったが、この職種上一切の安堵はなかった。
むしろ、不安の方が大きくなる。
しばらく待機部屋で待っていると店長がやってきた。
「は~い、東堂さん、北条さん。面接ぶりだねー。本日研修を担当する店長の二川ですっ! よろしくにゃん☆」
――この瞬間、俺の頭の中では緊急会議が開かれる。
議題は『よろにゃん』レスポンス案件についてだ。
①真顔で「よろしくお願いします」
②「店長ノリ軽すぎんだろ!」のツッコミ
③「こちらこそよろにゃんにゃん☆」のブッこみ
まず一般的に考えて正しいのが①である事は間違いない。
しかし、最近似たような状況で某担任がブッこんできた時もマジレスはかなり効いていたみたいだった。
もしかしたら店長を傷つけてしまうかもしれない。①はやめておこう。
②に関しては中間択でありながら比較的丸い選択肢とも言える。
その後の店長の会話も繋がりやすいローリスクな選択だ。
最後に③だが、③はない。
だが、待て。そんな覚悟でこの業務が務まるのか?
キツくて、やりがいのある仕事を求めたのはお前自身じゃないのか?
たとえ拙いビジネスよろにゃんだとしてもここは
この間、1秒。
――賽は投げられた。
「よ、よろ…ぃ…ぅく、にゃん……☆」
「よろしくお願いしま……ほ、北条!?」
「うーん。100点」
赤面しながら醜態を晒す俺を見て店長は鼻血を流しながら倒れた。
***
過ちは繰り返される。
担任の尊厳という犠牲も空しく。
俺は今日ほど担任の気持ちが分かった事はなかった。
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