第12話 教師としての軸 side 百合 聡美


「えー、それでは他に質問が無ければ……」


「はい! はーい!」


 もしかしたら全員、東堂さんと同じ質問かもしれない。

 そんな一縷の望みはいともたやすく潰えた。



「……はい、南雲さん」


「趣味のお裁縫って何作るんですかー?」


(あれ? 意外とまともな質問ね……)



 い、いけない。私はまた生徒に偏見の目を……。

 しっかりと生徒と向き合わなくては。



「に、人形とか作りますよ。その時々ある材料とかでね」


「すごーい! ワタシにも今度人形作り教えてくださーい! 藁と髪の毛は用意してあります!」



 藁はともかく、髪の毛採取の件が怖くて私は南雲さん生徒から顔を背ける。



「いやぁ……、先生ちょっとスピリチュアル人形は専門外で……。ごめんなさいね」


「そっかー、残念。ちょっと意外ー」


(い、意外……!?)


 私は一体南雲さんにどう思われているのだろうか。

 もしかしたら、例の一件で私病んでる患者なかまだと思われているのかもしれない。


 ……あまり深掘りするのはやめておこう。




「えー、それでは……」


「はい」


 姿勢よく西宮さんが手を上げる。

 凛としたその姿だけ切り取れば誰も西宮さんの通り名を信じることはないだろう。

 他人の伝聞から偏見をするのは良くない。まずは話を聞こう。


「……はい、西宮さん」


「先生はガチ百合ゆりですか?」


「西宮さん? 人の名前で遊ぶのは失礼ですよ? 気をつけましょうね」


 私は学生時代、幾度となく行われてきた名前弄りに冷静に対処する。

 年季が違うのだ。これくらいでは動じない。


「失礼しました。先生はガチレズですか?」


「……西宮さん?」


 動じてないのは彼女も同じだった。

 むしろまったくブレない彼女に私の方が動揺する。


「ちなみに私はガチレズです」


「聞いてません」


 私は1年でこの子を理解してあげられるのか。

 そんな不安が急に襲ってきた瞬間であった。




「ほ、北条さんは何か質問とかありませんか?」


 対応に困った私は咄嗟に北条さんに話題を振る。


「ここで俺!? え、まぁ別に聞きたい事とかはないですけど……。これからこいつら3人が迷惑かけると思いますが、1年よろしくお願いします」


「北条さん……。この子はヤンキーみたいな見た目の割りには意外とまともなのかもしれないわね……」


 私は心の中で呟く。

 やはり生徒に偏見を持ってはいけない。ブレにブレまくった私の価値観がようやく定まる。


「いや、ごめん先生、本音漏れてんだわ」


「ご、ごめんなさい! お願い、顔だけは許して!」


「どこも殴らねぇよ!!」



 ***


 その後、生徒たちの軽い自己紹介を終え、係決めをした後に無事HRは終わった。


 後で聞いた話によれば、1-AのHRは一番賑やかだったらしい。



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