第10話 特級クラス


「――あのさ、」


「どうしたんだい?」


「この東堂から俺までの席の並び、終わってると思うんだけど。お前らはどう思う?」



 静まり返った教室で北条が言葉を発すれば生徒達の間に緊張が走る。



「まさかみんな同じクラスになれるなんて奇跡だよね! 楽しくなりそう!」


「ねぇ北条さん、私と席変わらない?」


「お前……、初日からあんま勝手な事すると担任が泣くぞ。もし気弱な先生だったらどうすんだよ」


「そっくりそのままその言葉を返すわ、鏡貸しましょうか?」


 既に若干ギスっていた。



 ――彼女たちは知らない。

 既に担任は廊下で涙目になっている事を。



「ところで、どうしてこんなに皆静かなんだろう? 他のクラスはもっと賑やかなのに」


「あーちゃん、たぶんみんな大人しいタイプなんだよ!」


「そうか、じゃあせっかくだし僕から声を掛けてみようかな」



 コミュニケーション能力の高い東堂は近くにいた女子に気軽に声を掛ける。



「やぁ、初めまして。お話してもいいかな?」


「……ひぃぃ!」


「……おや? 何を怯えているんだい?」



 怯えられていることに流石の東堂もショックを受け表情が強張る。

 不穏な空気が漂う中、二人のやりとりに注目が集まった。



「あ、あの……。昨日、校門前で揉め事起こしてた方ですよね……?」


「うっ……あれは揉め事というか、ちょっとした行き違いというか、その……結構見られてたのかな?」


「噂になってます……、って」


「なっ、ナンパ女……!? 誤解だよ! 僕は西宮さんに告白してただけだ! みんなからも説明してあげてよ!」



 入学早々、謂れのない噂を立てられている事に憤りを感じた東堂は仲間に助けを求める。



「まぁ初手から告白はだいぶチャラいわよね」


「あーちゃんそういとこあるからなぁ……」


「そういうとこやぞ、ナンパ女」



 仲間は存在しなかった。



「まぁ、身から出た錆ね。これからは私のようにまっとうに生きなさい。その汚名をそそげるようにね」


「……あ、あの、あなたにも噂が立ってます、よ?」


「……話しなさい」



 思わぬタイミングでの奇襲に西宮は身構える。



「登校中の生徒の体に触ったり、いかがわしい発言で辱しめたり……」


「……続けて」


……、そう……呼ばれています……」



 女子生徒は悲痛な面持ちで告げる。



「お前マジなにやってんの? ドン引きだよ」


「麗奈……セクハラは不味いよ」


「そいうとこだよ、セクハラ女」



「もう……みんなもうちょっとちゃんとしなくちゃ。1-Aが変なクラスだと思われちゃうよ?」


「あ、あのー……」


「おい、この流れはまずい」


「……昨日、あなたから東堂さんの話を聞いた子たちの間で噂になってます……」


「え! なになに? 可愛らしいお嫁さんとか正妻とかかな!?」


です……」



 教室の室温が10℃くらい下がった。



「ねね! あとでその子たちのトコに案内してー?」


「ゆーちゃん! それはまたの機会にしよ? ね?」


「案内させんのはヤバすぎんだろ……」


「そういうところよ、メンヘラ女」



 噂を語ってくれた女子生徒は最後に残った北条の顔をチラチラと窺う。

 北条はもはや諦観の境地へと至る。



「いいよ、言ってくれ」


「…………です」



「せめて『妖怪』つけろや!!! なんで俺だけガチっぽいんだよ!! ただの不良じゃねぇか!!」


「まぁまぁ茉希ちゃん、落ち着いて。言ってるのはこの子じゃないんだから」


「そうよ、クラスのみんなも怯えてるじゃない」


「そういうところじゃないか、ヤンキー女」




「そ、その……」


「……ん? どうした? まだ何かあんのか?」


「さっきのは個体名なんですけど、あなたたち4人のグループ名もあって……」


「こ、個体名とは酷い言われようね……」


「『1-Aの特級呪物』って言われてるみたいです……」




「「「「……………」」」」




「よし! 今から噂の出どころ探しに行こうぜ」


「そうだね、手遅れになる前に間違いは訂正しておかないと」


「どうやって探すー? もうローラーでいいかな?」


「面倒だしそれで行きましょう」




 ――まもなく、呪物たちが開戦しようとしていた。



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