1年生 -1学期編-
第9話 事故物件 side 百合 聡美
「――それでは百合先生。初めての担任という事で分からない事、戸惑う事はあると思いますが、何事も経験です。これから一年よろしくお願いしますね」
「はい! 至らぬ点はご指導ご鞭撻をどうかよろしくお願いします!」
学年主任の先生からのお言葉に少し声を上ずらせながら返事をする。
昨日の入学式が終わり本日から担任としてクラスを受け持つ事となった私、
そんな様子を察した学年主任は優しく微笑む。
「そんなに硬くならないで。今から緊張してたら身が持ちませんよ」
「は、はい!」
「ふふっ……私が言葉を掛ければ掛けるほど逆効果よね」
「い、いえ! そんな事は……!」
「百合先生は反応が可愛いからついつい意地悪したくなっちゃうのよね。その調子ならきっとすぐ生徒達とも打ち解けれますよ」
学年主任に弄られた私は羞恥に頬を染める。
「ありがとうございます! それでは1-A担当百合聡美、行って参ります!」
「ふふ、行ってらっしゃい」
(勢いあまって、少し早めに職員室を出ちゃった……)
私は気持ちを落ち着ける為にもゆっくりと教室へ向かう事にする。
1-Aへ向かう間に何度も名簿で確認した生徒の顔と名前を思い出す。
担任の経験のない私が受け持つクラスは、学年でも比較的落ち着いた子や優秀な子を多めにして頂いてるらしい。
当然、学園も生徒達を天秤に掛けるつもりはないけれど、大事な子供たちを任せられる以上は教員側の配置も重要になってくる。
能力にあった適材適所は必要だ。
しかし、様々な要因はあれど結局は責任の重さに変わりはない。
そんな教員としての使命感は私に緊張をもたらした。
階段を上った後、一番奥にある1-Aの教室に向かう途中に他のクラス様子を少しだけ確認する。
緊張した面持ちで他の生徒に声を掛けている子もいれば、明るい子たちはすでにグループを作って話をしている。
廊下には心地よい喧噪が漏れていた。
そんな生徒達の様子を見ていたら私の気持ちはだいぶ落ち着いていた。
(子供たちが好きで先生になったんだ。緊張してるだけじゃダメだよね……!)
たくさんの行事やイベントを経て生徒達との交流をして絆を深める。
それが生徒達、延いては自分の成長に繋がっていく。
そんな明るい展望を心に描けば、いつしか足取りは軽くなっていた。
ところが、そこで私はあることに気づき歩調を弱める。
違和感を感じたのは1-C超えた辺りである。
――静かすぎる
1-Bの様子を確認してみれば中で何人かの生徒たちが談笑している。
原因は1-Bではなかった。
つまり、導き出される結論は、
(え、えーっと、もしかして1-Aの子たちは大人しい子が多いのかなー……なんて)
少し離れて1-Aの様子を覗いてみると、全員の生徒が気まずそうに着席していた。
異常な光景に私は冷や汗を流す。
更なる原因を探るべく私は生徒達の視線を追う。
すると、1-Aの生徒達の視線はある地点へと向かっている事に気づく。
(あの辺りに座ってる子たちって確か――)
――東堂さん、南雲さん、西宮さん、北条さんだったかしら……?
***
後に私は知ることになる。
このクラスが『妖怪屋敷』と呼ばれていることを――
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