第4話 花火

 空で色とりどりの花火がはじけ、一瞬遅れてどおん、どおん、という重い音が鼓膜を揺らす。

 菊や牡丹などのシンプルな形のなかでも特に大きな花火や、ハートや星の形になった型物の花火が打ちあがると、道の途中で足を止めた人々から短い歓声が上がった。

 ウミも、植え込みのすみのほうに腰かけて花火を眺めていた。その植え込みは、店が多く並んでいる太い道をわきに外れて少し進んだところにあり、ウミのお気に入りのスポットだった。太くて葉の多い木が茂っているため空が見ずらいように思えるが、屋台の屋根があるところと比べると意外とこちらの方が見えやすかったりする。他の村人も知らないので静かで、仲のいい友達ときたらおしゃべりも弾みそうだなと思っていた。

 何度も、絶え間なく瞳に光が映り込んだ。


 木々がざわめいた。

 突然冷たい風が吹き付け、ぼおっとしていた頭にまで鳥肌が走りつい体が縮み上がる。

 いつの間にか花火も終わっていたらしく、空には星だけが瞬いている。ごくかすかに聞こえていた、本道沿いからの声も聞こえなくなっていた。

 新月であるうえに山で行う今日の祭りの為に持ってきていた、小さな懐中電灯を取り出してライトをつけた。

 一番のイベントである花火が終わったということはもう祭りも終わりということだ。そろそろ戻るか、と腰を上げてお尻に着いた土を払い、そばに置いていた財布や射的で撃ち落とした景品を拾い上げた。すると、ぱさと何かが落ちた音がし、見ると地面に落ちた大きな赤いかけらに懐中電灯の光が薄く反射して鈍く光っていた。どうやら割れたりんご飴を持ち上げた拍子に飴の破片が落ちてしまったらしい。実際、りんご飴の一部に、飴がはがれてりんごの表面がのぞいている箇所があった。

「割れてる……。まだ大きかったのに、残念だな」

 ウミは、乱暴に扱ったつもりはないんだけど、しょうがないか、と、忘れ物を確認して太い道に向かって歩き出した。

 もときた道から伸びているわき道を通り、本道が見えてきた。

 しかし、違和感があった。ついさっきまでと何かが違う。

 違和感の正体を探りながら、わきみちの出口を遮っていた木の枝を手でどかす。

 そこで気付いた。人が一人もおらず、店の電気がすべて消えていたのだ。それどころか、そこがなんの店かを示す布も外され、骨組みだけの店も少なくなかった。

「他のお祭りの……準備中なのかな……?」

 花火が打ちあがっている間は祭りの最中なので店も開いていたはずだし、いくらぼおっとしていて花火の終わりに気づいていなかったとしても、そこまで長時間はあの場にいなかったはずだ。たったそれだけの短い時間で祭りが終わってここまで店が解体されるとは思えなかった。

 しかし、ウミが通ってきたのは間違いなく最初に通った道だったはずだ。それに、この神社がいくら広いとは言っても、この太さの道は一本しかない。

 あまりにも異質な状況に気味の悪さを覚えつつ、はやく家へ帰ろうとウミは神社の出口へと小走りでかけだした。

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