第3話 りんご飴
夕暮れ前に開始された祭りだが、ワイワイと沢山の人が集まったことによる熱気と、いつもと違う時を過ごしているという高揚感もあってあっという間に日が傾き始めた。
やがて太陽が半分ほど地平線に隠れると、ウミは、より沢山の客を集めようとした店番から多く声をかけられるようになった。
「美味しいたこ焼きはいかが〜」
「ヨーヨー釣りやってかない?」
夜になるとメインイベントである花火が始まるので、花火に人が集まる前にできるだけ商品を売ってしまおうという考えだろう。
ウミも花火が始まる前に何か買っておこうと、屋台を見渡す。
食品を扱う店からは美味しそうな食べ物の良い匂いが漂ってくるし、屋台のゲームに興じる人々の楽しげな雰囲気を見ているとミニゲームも捨てがたいと感じる。
結局、一番並んでいる人が少なかった射的屋に行くことにした。
「いらっしゃい! って、あぁ、ウミちゃんじゃないか! 今日は一人で来たのかい?」
「あ、おじさん、こんばんは。そうですね、お祭りは一人で来たくて……」
提灯のあかりしかない薄暗い中、さらに遠目からだったこともあり気づかなかったが、気さくに話しかけてくる人の良さそうな射的屋の主人はウミの家のすぐ近所に住んでいる人物であった。「おじさん」とは言っても、ウミが幼い頃から面倒を見てくれていたのでそう呼んでいるのであって実の叔父なわけではない。
「そうかそうか。じゃあ射的、一人分だね。今は他に人もいないし、少しサービスしてあげようか」
「いいんですか、ありがとうございます」
代金を支払うと、渡された射的用の銃と普通よりコルクを二つ多く入れてくれた皿を受け取る。
りんご飴をビニールにくるみなおし荷物台に置き、早速コルクを取り付けて銃を構える。
ウミにも一緒にお祭りに来るような友人がいないわけではない。なんなら学校での友人は多い方だ。ただ、なんとなく、
「一緒に行く気には、なぁんかなれないんだよね……」
パスッと音を立てて放たれたコルクは、見事にチョコレートの駄菓子を台からはたき落とした。
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