第6話:お風呂

『あの二人は絶対に許せません、あんなにご主人様を見下すとは』


 さっきから綾可はずっとクライードとクルヘームのことに文句を言っている。


 夕食の時、クライードとクルヘームに「こんばんは」と挨拶したけど、彼たちに舌打ちされ無視されたために、綾可は不満を感じた。


 俺はもう慣れたから構わないと思ったけど……。


「綾可もすぐに慣れるよ」

『でも……』

「でもじゃない。俺は力を隠すと決めたからには、人たちに見下されるのは必ず通らなければならない道さ」

『はい……』

「けど、気にかけてくれてありがとう、綾可」

『いっ、いいえ!綾可はただ感じたことを素直に申し上げただけです、ご主人様』


 力を隠して平凡を貫く。一切は俺の思い通りに進んでいる。


 そして晚ごはんを食べた後は入浴時間なので風呂場まで来た。


 さすが貴族の風呂場、とても広くて豪華に見えて浴槽も大きく泳げる。


 前世は日本人だったので毎日の入浴は欠かせなかった。しかし、この世界の人はほとんどお風呂に入らないようだ。なぜなら浴槽は貴族やお金持ちの家だけにあるものだから。


 辺境伯家に生まれさせてくれてありがとう、神様。


 更衣室に行って衣服を脱いだ後、体を軽く洗い流した。


「気持ちいいー」


 浴槽に身を浸すと疲れが抜けていく。


『ご主人様、もしよろしければ綾可に背中を流させてください』

「えっ?……えええええ?!」


 俺の叫びは風呂場に響き渡った。いきなり綾可が背中を流すことを求めてきたので驚いた。これは予想外なことだ。


 どう答えたらよいかと思った時、綾可は俺の前へ回り込んできた。


 目の前の光景が俺の顔を真っ赤にした。綾可はなんと全裸だ!

 湯気が風呂場内に充満していたが、体つきがはっきりと見える。


 慌てて目を逸らして背中を向けた。


「なっ、なぜお前は裸だ!?」

「風呂場では裸になることが普通ではありませんか?」

「ウッ……」


 俺が反論できないなんて。


「ダメですか、ご主人様?」


 と、突然に後から抱きついて哀願するような目つきで俺の顔を覗き込んでくる綾可。


 この柔らかい感触はまさか?!

 ―――むっ、胸が当たっている!


 さらに顔を紅潮させる。


「わっ、わかったよ!洗ってくれ」

「はい!」


 俺の言葉を受けて綾可は俺の体に巻き付けていた腕を解いた。心臓が激しく打っていた。


 今の俺は三歳の子供なので性欲はない。それでも恥ずかしすぎると思った。


 浴槽から出て腰掛けに座って、綾可も後ろに来た。

 女の子に背中を流されるのは初めてだから、緊張してきた。


「行きますよー」


 綾可は石けんを使い、スポンジで俺の背中を洗い始めた。


「ご主人様の背中は小さいですね」

「あっ、当たり前だろ?俺はまだ子供だから」

「そうですね」


 綾可は背中を洗いながら鼻歌を歌って楽しそうだが、俺はすこしでも早くここを離れたい!



 ❖❖❖



 入浴後、自分の部屋に戻るとベッドに倒れこんだ。


 身体が重い……。綾可が背中を洗い流してくるとは思わなかった。

 でも、めちゃくちゃスタイルが良いな……。細身ながら、胸が豊満だし、肌もすべすべしているように見えた。


 ……いや、いったいなにを考えているの、俺は。


 首を左右に振って妄想を振り払った。


『大丈夫ですか、ご主人様?顔色が悪いです』

「大丈夫だけど……」


 起き上がって机の上の魔法教本を見た。俺は魔法の勉強を続けないと。


 本を持ち上げて開けた。


 しかし、今朝のことはまだ納得できない。【雷刃】をやってみようとしていると、俺は原因もわからず倒れた。


 原因はいったいなんだろう……。


『ご主人様はなにか心配事があるようです。どうしましたか?』

「そうだね。朝の時、魔法を勉強している途中でなぜかわからずに倒れてしまった。綾可は原因がわかる?」

『わかりますよ』

「じゃ、それはなぜ?」

『ご主人様の最高魔力値は6ですね。下級魔法を1回発動するたびに、1ポイントずつ魔力値が減少しますから、ご主人様は6回の下級魔法を発動できます。でも、魔力値が尽きる時には、意識不明・吐き気や眩暈などが起きますので、ご主人様が倒れた原因は多分魔力値が尽きるせいです』

「そうなんだ、それは初めて聞いた」


 綾可の説明で俺が倒れた原因がやっとわかった。なるほど魔力が尽きるせいか。


 確かにその時、俺は6回の魔法を発動すると魔力を感じなくなり、気を失った。


 これからは魔力値を注意しないと。


「それなら、どうやって魔力値を回復するのか?」

『少し休めば魔力値が回復しますよ』

「もう一つ質問だが、どうやって魔力値を高めるのか?」

『ご主人様は魔力値を高めたいのならば、自分のレベルを上げる必要があります。レベルアップするには魔物を倒さなければなりません。レベルが1アップするたびに10ポイントの魔力値が上がります。それにHP値も10ポイント上がります』


 レベルを上げるために、魔物を倒して経験値を獲得しなければ。一定の経験値に到達するとレベルがアップする。それに伴い魔力値もHP値もアップする。


 まるでゲームみたいだ。


 魔物を倒すのか……。けど、長い間戦いをしていなかったので、腕がちょっと鈍くなっている。


 時間があれば、魔物を倒して戦いの感触を掴もう。


「綾可は魔法に詳しいね」

『はい。綾可は転生する前に神様に召喚されました。綾可をご主人様のお役に立てるようにするために、神様はこの世界についてのいろいろな知識を教えてくれました』


 神様の意図を悟った。神様が俺に綾可を渡したのは、俺たちを再会させたんだけじゃなく、綾可も仲間とそばにいて俺を助けさせようとしているのだ。


 また神様に会えたら絶対感謝しよう。


 さて、魔法の勉強を続けよう、邪神を倒すために。

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無能なんてまあいいか ~神様に賴まれた俺は、実は世界無双の実力を隠し持って暗躍していた~ 白皇 コスノ @porter6061212

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