第5話:綾可

「またご主人様に逢えて嬉しいです」

「おい!ちょっと、待て!」


 いきなり知らない少女にご主人様と呼ばれ抱きしめられて、とても恥ずかしい。しかも彼女は裸で直視できない。


「おっ、お前は誰だ?」

「ご主人様はひどすぎます、綾可を忘れてしまったとは」

「えっ?」


 少女は泣き始めた。


「……っ」


 やべぇ、俺は女の涙に弱い、どうしよう……。


 彼女はさっき自分を綾可と言ったけど、信じられない。でも、俺は確かに【神剣召喚】を発動した。


 ……まさか。


「あっ、あの、綾可?」

「はい!やっぱりご主人様は綾可を忘れていません!」


 すぐに泣きやみ笑顔になり、もっと強く抱きついてきた。本当に綾可のようだ。


 左腕は綾可の胸に密着しているため、顔がさらに赤くなった。


 綾可は剣じゃなくて少女になった。これはどういうことだ?


「すっ、すまん。綾可が突然少女になってしまったので誰か思い出せなかった」

「綾可は進化しましたから、ご主人様」

「進化?」

「はい、神様の加護によって神剣に進化しましたから、剣霊の姿を現すことができます」

「そうなんだ」

「これはご主人様の香り……ふふ、いい匂いです」

「もっ、もういい。早く服を着てくれ!」


 まったく目のやり場に困ってしまう。


「ご主人様、顔が赤いですね」

「とっ、とにかく服を着てくれ!」

「はーい」


 指をパチンと鳴らすと、女騎士のような服装になった。やっと動悸が収まった。


 綾可をよく見ると、金糸を編んだような長い髪、翡翠みたいに光る瞳、白い肌。

 容姿端麗、可愛らしい様子。


「その、ご主人様……ご主人様?」

「あっ、ああっ」

「どうしましたか、ご主人様?具合が悪いのですか?」

「いいや、なんでもない……」


 思わず魅了された。まさしく俺の好きなタイプだ。


 心臓が再び激しく鼓動した。


「ここは書庫みたいな場所ですよね。ご主人様はここで何をしていたのですか?」

「魔法を勉強していたのさ」

「ご主人様には魔法の才能がありますか?」

「ああ、全属性の魔法適性がある」

「さすがご主人様、全属性魔法の才能があるとは」


 また抱きついてきた。


 いや、これは神様の加護のおかげだ……。俺は苦笑した。


「質問だけど、綾可は刀の姿に変身できるのか?」

「もちろんできますよ」


 にわかに綾可はまぶしい光を放ち、刀の姿になった。この光景を見て、雀躍した。

 刀を握って振りたいが、少し重く感じて持ち上げられなかった。今の俺は三歳で力不足のため剣を振れない。ちょっと悲しいと思った。


 早く成長したいなぁ。


 ……あった!と、【スキル創造】を思い出した。【スキル創造】を利用したら綾可を持ち上げて戦うことができる。


 再度【鑑定】の呪文を詠唱して発動し、【スキル創造】をタップしてスキルを創造する。


「無よ、すべてを見抜いてくれ、【鑑定】!」


【力持ち】、効果はどんな重い物でも簡単に持ち上げられることだ。


『スキル【力持ち】を習得しました、おめでとうございます』


 もう一回剣を握りしめた。【力持ち】の効果で、綾可を簡単に持ち上げられた。


 神様からもらったスキルはとても便利だけど、チートすぎる。このスキルは慎重に使わないと。


 綾可を振り回す。


「どう思いますか、ご主人様?」

「相変わらず使いよいな」

「それはよかったです」

「なあ、綾可。剣が喋り出すのはおかしいから、剣の姿に変わってから話をしないといけないね」

「はい」


 綾可に会って、邪神を倒すことにいっそう自信がついてきた。


『これではどうでしょうか、ご主人様?』


 突然、綾可の声は俺の頭の中に出た。


『これは【思念伝達】というスキルです。効果は心に思うことを直接に他の人に伝達できることです』

「いいね。もう一つ、俺に全属性の魔法才能があることを誰にも教えないでくれ」

『なぜですか?』

「実力を隠したいからだ」

『かしこまりました』


 窓から空を見るともうすぐ日が暮れる。あとは夕食の時間なので、早くここを片付けて食堂に行かなければ、クライードとクルヘームに文句を言われる。それはいやだ。


 思わずハーとため息をついた。


『大丈夫ですか、ご主人様?顔色が悪いですね』

「大丈夫だけど……。さあ、早くここを片付けて夕食を食べに行こう」

『綾可が手伝います』


 そこで綾可は剣霊の姿に戻った。

 二人は一緒に床に置いた本を拾い上げて、全部を本棚に戻した。

 本を戻してからドアを開けて書庫を出ようとした時……。


「っていうか、その姿も誰かに見られるわけにはいかないね」


 実力を隠すから綾可のことを他人に知られてはいけない。どうしようかなと思うけど、俺の心は綾可に見抜かれるようだ。


「それなら……」


 いきなり綾可は強い光を放ち、小さな光点になって俺の体に入った。


『これなら誰にも見られないです』

「いい方法だね、俺の体に隠れるとは」


 俺は安心した。書庫を出て、食堂の方に行く。


「そうだ、綾可。今の俺の名はシルイド、シルイド・ウィーロスだから覚えてね」

『シルイド様ですか。かっこいい名前です、ご主人様」

「これからもよろしく、綾可」

『はい!これからもよろしくお願いします、ご主人様』


 食堂に来て中に入ると、メイドたちは食事の準備をしている。自分の席に座って晚ごはんの時間を待つ。


 綾可に会えて嬉しかった。神様の期待に背いてはならない、頑張らないと。

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