第2話:異世界
「可愛い子だね」
「お疲れ様、フィリア」
声が聞こえる。どうやら、俺は転生に成功したようだ。
目覚めると、一人の若い女性が俺を覗き込んでいる。彼女は金髪碧眼で二十代に見え、美人と言える。
隣には、同じく若い銀髪の男性がいて、俺に優しい笑みを向けている。
彼たちは誰だろう……。
自分の手を見てみると、手は小さくなっている。身体もそうだ。
なるほど、俺は生まれたばかりの赤ん坊に転生したようだ。目の前にいる男女が俺の両親であるらしい。
「この子を抱いてみてもいい?」
「いいわよ」
彼たちが話している言葉は日本語じゃないけど、なぜかわかる。
そして俺はその男……いや、父さんに抱き上げられた。
「本当に可愛いね」
「でしょう。そうだ、この子の名前は決まったの?」
「決まったよ。シルイドはどう?」
シルイドか、いい名前だな。
「ヤー、ヤー」
と、声を出した。
俺は赤ん坊なので、ヤヤという声を出すしかなかった。
「返事した!」
「この子はその名前が気に入ったみたいね」
「そうだね。じゃ、シルイド」
「ヤヤー」
また声を出して返事する。
俺はシルイドと命名されたようだ。
「この子は不思議だな、まるで私たちの言葉を理解しているようだ」
これは神様の加護のせいか、彼たちの言葉がわかる。
でも、赤ん坊の身体はちょっと疲れやすいので、眠たくなった。眠い……と、思う俺はこのまま眠ってしまった。
❖❖❖
シルイド・ウィーロス、これは俺が転生して今の名前だ。ウィーロス辺境伯家の三男として生まれ変わり、異世界の貴族の家に生まれた。
父さんの名前はラインケル・ウィーロス・ファレンシア。
この世界の貴族はみな、自分の嶺地の名称を名前の最後に入れる。だから、ファレンシアは父さんに今支配されている嶺地だ。
ファレンシア嶺はリオメナス王国の東北に位置するけど、王国はユーニセニア大陸の中央南寄りに位置し、周囲をいろいろな国に囲まれている状態である。
王国で辺境伯とは、国境地域防衛のために軍事指揮権が与えられ、かなり上級の貴族だ。
母さんの名前はフィリア・ウィーロス。
女性は結婚したら改姓する。夫の家の姓に変えないとならない。
それに二人の兄がいて、長兄の名前はクライード・ウィーロス、次兄の名前はクルヘーム・ウィーロス。
長兄とは十歳離れ、次兄とは九歳離れている。
しかし、クライードとクルヘームは俺の存在に対してとても反感を抱いているようだ。この世界は男性の社会的地位が高く、継承権は男系男子に限られている。
でも、俺は権力や地位に興味がない。神様に頼まれたから、早く邪神を倒さなきゃ。
っていうか、綾可はどこかな?
綾可は俺と一緒に転生したけど、今はどこにいるかわからない。綾可に会いたいなぁ。
「シル、お腹空いたでしょう?」
母さんは俺のことをシルという愛称で呼ぶ。
「はーい」
と、服のボタンを外して授乳する母さん。
もちろん恥ずかしく思うけど、今の俺はただの赤ん坊なので母乳を飲むしかない。
❖❖❖
あっという間にもう三年が過ぎ、三歳になった。
生まれてからみなの言葉を理解していたことで、賢い子と思われた。
やべぇかな、人目を引きたくないのに。
そのために俺は兄さんたちに嫉妬されていたようだ。彼たち二人はよく継承権をめぐって闘争をする。
その闘争に巻き込まれたくないけど、二人とも俺に敵意を抱いている。
どうしよう、俺は……。と、思わず嘆息をもらして苦笑した。
そして神様の言った通り、この世界には魔法がある。母さんは前に俺に魔法を見せたことがあり、かっこよくて綺麗と思ったから、魔法を勉強すると決めた。
けど魔法は、母さんから聞いて誰でも使えるようになるものではない、万人に一人だけが使える。
自分には魔法の才能があるかどうかわからないが、魔法をやってみたい。
今、俺は廊下を歩いてぶらぶらと書庫みたいな部屋を探している。
書庫にはきっと魔法の教本があると思った。それにこの世界には俺が知らないことはまだたくさんだから、この世界の情報も集めないと。
さすが貴族の屋敷、廊下は広くて部屋もたくさん。
「屋敷に書庫があるの?」
と、メイドに聞いた。
「書庫なら奥にあります、シルイド様」
「ありがとう」
メイドの言ったとおりに奥に行くと、前に扉があった。
扉を開けて入って、確かに書庫だ。
適当に本を取って自分の目的の本を探すと、間もなく「下級雷魔法」というタイトルの本を見つけた。
本を開けて最初のページから読む。
この世界の文字はもちろん日本語の文字じゃないけど、俺は読める。
これも神様の加護のせいか。
この世界には九つの属性がある。それぞれは水・炎・木・土・風・雷・無、それと希少な属性の光と闇。
本棚を見て他の色々な魔法教本もあるけど、まず下級雷魔法を勉強しよう。
本を持って書庫を離れた。
でも、書庫から本を持ち出すには父さんの同意を得なければ。
父さんのオフィスに行ってドアをノックした。
「誰だ?」
「あの、私です」
「シルイドか、入って」
「はい」
ドアを開けてオフィスに入った。
父さんは立派な執務机に向かって座り、何かを書いている。机の上は書類が山積みだ。
「どうしたの、シルイド?」
「その、書庫にある魔法教本を持ち出してもいいですか、父さん?」
「そんなことはお前の自由だ。私の同意は必要ないよ」
「はい。それでは、失礼しました」
お辞儀をしてオフィスを離れ、廊下に出てドアを後ろ手で閉めた。
俺がオフィスに入室から退出までその間、父さんは一度も顔を上げなかった。ずっと何かを書き続けていて忙しそうだった。
まあ、それでもいい。父さんが同意した以上、早く魔法を勉強しよう。
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