無能なんてまあいいか ~神様に賴まれた俺は、実は世界無双の実力を隠し持って暗躍していた~
白皇 コスノ
第1話:転生
夜明けになるといつもどおりに道場に行って自己鍛錬を行う。
床に座って自分の愛刀を磨く。俺の愛刀は模造刀じゃなく正真正銘の真剣で「綾可」という名刀だ。
小学生の頃に綾可に一目惚れし、祖父から譲り受けた。それに勧善懲悪の時代劇が好きだったので、綾可と悪人を斬ろうと誓った。そのために、俺は剣道・柔道・空手・総合格闘技などを勉強した。
もちろん一時の熱病じゃ決してなく、すでに多くの悪人が俺の刀の錆となった。
俺はシリアルキラーじゃなく暗殺者でもない、ただ一人の侠客だ。
―――バーン、突然静寂の中で爆発音が轟いた。
なにごとだ?
数多くの足音が近づいてきた。部屋に侵入してきた男たちが俺を取り囲んだ。全員で三十人、上から下まで黒一色の服装をしている。そして覆面をしているので、顔がよく見えない。
「よぉ!お前が皇 皐月だな?」
「……そうだ」
五月に生まれたので俺は皐月と命名された。
刀を掴んで立ち上がった。
俺の本能が警告している、彼らは善人じゃあるまい。
「お前たちは誰だ?」
と、怒りに任せ彼らを睨んだ。
彼らはおそらく誰かに指図されて俺を殺しにきたのだろう。でも、陰で操る人はいったい誰だ?
「お前に教える必要はない、死んでもらおう」
全員が襲いかかってきた。でも、彼らの剣の腕前と俺のそれには大きな格差があり、まともに戦うことはできなかった。俺の一振りで一瞬に四人の頭が宙に舞い、首から血が勢いよく噴出した。
「なん……!?」
他の刺客はこの光景を見て呆気に取られた。
「もう攻めないのか?ならば、俺の番だな」
前に突き進んで剣を振り、五人、三人、四人とひとまとめに切り捨てていったので、俺の服と顔は返り血で赤く染まった。
「はやっ……」
「こっ、こいつ化け物じゃないか!」
恐ろしさのあまり両足ががたがた震えている彼ら。
「化け物とは名誉なことだな」
この時、刺客たちは拳銃を取り出した。引き金を引いて俺を射撃してきた。でも、遅い!
刀を振り回し、迫りくる弾丸を切り落とした。
また前に突き進んで四人、四人、三人を斬首した。
敵を即死させるには、斬首が一番いい方法だ。
あとは三人だ。
いきなりまたバーンと、道場に爆発音がして周りは火の海となった。
道場にまで爆弾を仕掛けたのか……。
我に返ると、二人が俺に斬りかかってきた。やばい!うっかりして気を逸らせてしまった。
慌てて攻撃を避けて刺客たちの首を斬った。危ない……と、脇汗をかいた一瞬……。
―――またバンと音がし、胸のあたりに鋭い痛みが走った。
「ウゥ……」
視線を下げると、撃たれた部位は心臓だ。その周囲はすぐに真っ赤に染まる。
反射的に手で傷口を塞いだ。けど、出血が止まらなくて胸の付近が赤く染まっていく。止血しないと。
「ハハハ、もう終わったな、死ね」
一人の刺客が俺に銃を向けた。
まさか俺はここで死ぬのか……。と、こぶしを握った。
けど、戦わないと。たとえ死ぬとしても、俺は戦わないと!
銃声がして愛刀を握りしめて弾丸を全部斬った。力の限りを尽くしてその刺客に剣を投げる。
「なっ……!」
その剣は刺客の頭を貫いたため、刺客が倒れて死んだ。
やった……と思った俺も脱力して倒れた。
血圧が低下し、呼吸が不全になった。そしてなんとなく眠りたくなった。
もう痛みを覚えなかった。むしろふわふわしている。
このまま俺は無意識になった……。
❖❖❖
「目を覚ましたようだな」
「……っ」
目を覚まして周りを見て、ここは……?見たことのない場所だ。
そして俺の前に一人の老人がいて、周囲は果てが見えない雲海だが、俺たちはその雲海に座っているようだ。
なぜ俺はここに?それに前にいる老人は何者だ?
「とりあえず、お前が死んでしまったことは間違えない」
そうだな。やはり俺は死んだ……。
でも、俺が死んだとしたら、ここは天国か?
「そうじゃよ。ここは天国じゃ」
俺は読心されたようだ。
じゃ、ここが天国だったら前の老人は神様?
「その通りじゃ。確かにわしは神じゃ」
やはり読心された。
「かなり落ち着いたようだな。普通は、自分が死んだことを聞いてびっくりするんじゃないのか?」
「そうですね。でもなにしろ、自分が死んだことは事実だから、この運命を受け入れるしかありません」
十七で死ぬなんて思っていなかった。
「そして、神様は私に何か御用ですか?」
「そうであった。お前に頼みたいことがある」
「どんなことですか?」
「邪神を倒してほしい」
「邪神なんて……」
神様はいきなり邪神を倒せと要求した。
「頼む、お願いじゃ!」
合掌しながら頭を下げて言う神様。
ちょっと突然だけど……。
「なぜ神様は私を選んだのですか、邪神を倒すとは……」
「なぜなら、お前には悪を斬れる力があるんじゃ」
「悪を斬れる力……」
「そう、お前はたくさんの悪人を斬ってきただろうが?」
「はい、そうですけど」
「そのために、お前は悪を斬れる力を手に入れた」
「……っ」
ちょっとわからない……。けど、神様がそう言って頭も下げて頼んできたのだから、助けてあげよう。
「わかりました、邪神を倒します」
「ありがとう」
感動しそうな顔をする神様。
「けど、どうやって邪神を倒すのですか?」
「わしはお前に加護をあげるんじゃ。その加護はお前を助ける」
「それは助かります」
神様の加護があれば、きっと倒せる。
「そうだった、わしはまだ自己紹介をしてなかった。わしは創世の神 フロドースじゃ。お前の名前は?」
「私の名前は皇 皐月です」
「じゃ、よろしく、皇くん」
「いいえ、こちらこそよろしくお願いします」
「さて、皇くんが転生する世界は魔法と剣がある世界じゃ」
魔法と剣がある世界か、まるでゲームだよね。少し楽しみだ。
「そして……」
突然神様の手が強烈な光を放った、まぶしい。思わず手で光を遮った。
その光は一つの剣になった。その剣は俺の愛刀である、綾可だ。
「綾可……」
「この剣は皇くんの愛刀だろ」
「はい!」
「わしももうこの剣に加護をあげた。この剣で邪神を倒しなさい」
神様は綾可を俺に渡した。死後に綾可に会えるなんて思っていなかった。
「ありがとうございます、神様」
心より神様を感謝する。
「いいえ。では、邪神のこと頼むぞ」
「任せてください」
「そろそろ転生しようか」
「わかりました」
神様は呪文を詠唱し始め、床には魔法陣みたいなものが現れた。
俺の身体は徐々に透明になっていく。これは転生の術か、なんか眠りたい。
この人生、俺は自慢すぎていたので災いを招いた。だからこそ、俺は決めた、次の人生では実力を隠すということを。
それ故に俺は光となって消え、異世界に転生する。
こうして俺の異世界人生が始まる……。
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