006

弓矢のような、風見鶏のような、はっきりとは思い出せない、一つだけ覚えていること、意思決定には向きと大きさが求められる。どちらが先であったかは分からない、私には求められた問いを処理することしかできなかったから。この概念は私の中に存在するものか、誰しもが抱えており無意識に弾ける程度のものか、左右何れかの道を進む必要があるとき、距離も時間も変わらなければ、何を基準に選択するのか。幼少期からの疑問であった、その根拠を問われたら何を答えれば良い、後楯を考慮するのか、未来や過去に囚われるのか、または、結果を逆算するのか、記録を基にして記憶に換算するのか。疑問には際限などなく、時を待たずして拡がり、積もり、原典すら思い出せない。問題を先送りにしていただけに過ぎないが、当時の私にその余裕は持ち得なかった、意思決定には既に別の要素が加算されていたから。私は何も選んでいない、選択できない、最初からそういう風に決まっている、心に嵐が巣食っているようで、全てを呑み込むことしかできない。これは私の意思だろうか、選ぶ前に解が弾き出されていく。これは私の意思と言えるだろうか、他に誰の意思が介入する余地があったのか。私という存在すらも不確かなものとして映る、傍らに在った筈の何かも消失する時が訪れる、故に、第三者の存在を振り払えず、声なき声が全てを覆す世界を受け入れる他には寄辺無く、肯定し、否定し、拘泥し、没却し、嘖む、納まりの良い思考というのは誰の目にも留まるように転がっている。物心が付く頃に世界が再構築されていく、その形はやはり心のままに奔放で、嵐のように渦巻いていた、灰色の空はどこまでも高く冷たい、海は果てまで荒く猛々しい、黒く暗く滲む、ミサイルのような光の束は全ての建造物を穿つ、平穏などは遠く、とても臨めるような状態ではなかった。また、意思決定のみならず、その源である乱雑な力はあからさまに顕現し、その範囲や強度を年月と共に増していった。レールをなぞるだけの生に何を求めるべきか、常に問われて息が詰まる、何かに追われるように、または、逃げるような生活をいつまで続ければ良い。私は何かに囚われていた、どこにでも在る隷属の結果だろう、その証左に苦し紛れのオーダーを出す、そして、何と無しにそれに触れたとき、嘗てない程の衝撃が身体を貫いた。空間に鏃のようなものが浮かんでいるのが見えた。見えると言っても光ではない、透明なそれらはずっと傍らにあったものだった、其れと無く認識していたものは徐々に解像度を増していった、視覚、聴覚、嗅覚、全ての感覚で知覚できるほどに、この身体の一部となった。このオーダーと線型性、リニアはセットになっていた、私のイメージでは、オーダーに応じて空間にレールが走る、また、それ以外にもレールは無数に存在し、触れることで一定の力を受け取る。扱うことのできる範囲を優に超えている、後先無く受け取れば身体が持たない、この力に対し肉体は余りにも脆弱に出来ており、例えば、反作用を打ち消すレールを通すにも際限のない演算が求められる、次に脳がその負担に耐えられない。あらゆる範疇が揺らぐ、時さえも打ち消す力を手中に収めることなど何者にもできはしない。但し、それよりも気にすべきことは起点の方だった。当然、この能力は私のものではない、では誰のものか。つまり、私の意思決定を支配していたものに相違ないが、その手掛かりはない。この場所には存在しない何かに限られる、実態があればその必要もない。思えば、最初からこの命題についても決まっていたのだろう、私には選択などできなかったのだからその解も決まっている、すべては私に必要だった。私には未来や過去に選択を残すことができなかった、そういう世界に生まれたから、能力が選択を左右するならば、オーダーに基づいていたのかも知れない。存在するかも疑わしい本能が息衝いて弾き出した結果だった、つまり、私には一縷の迷いも存在しない。故に、オーダーを重ねてこの嵐も飛ばしてやればいい。それだけの話を何年も展開していた。時間は限られている、この世界には未知が溢れているが、足場を組むくらいの既知も揃っている、そして、能力の最先端は超常兵器に限られる。すべての現象にこの能力を当ててやればいい、壊れないものが真相だから。

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