two
窓から見える中庭を誰を見るわけでもなく、ただぼーっとしながら時折ため息をついて見つめていた。
「どうしたの? 恋煩い?」
「はぁ?」
いきなり意味の分からないことを口に出して話しかけてきたのは、同じクラスかつ同中の
「ため息ついてるから何かあったのかなぁと……」
「何もないよ。次、移動教室。行こう」
お前が言うか? と思ったが、いつもの自分に切り替えて、教科書を持って教室を出ようとする。
「ちょっ……待って」
何も準備していなかったのか、慌てて物を落としながらもついてくる凪津。そんな姿が日常へと呼び戻してくれているようで、顔に笑みを浮かべた。
「うわぁぁぁまじか……」
昼休みになると教室で、凪津が頭を抱えながら嘆き続けている。正直目立っているからやめてほしい。
「恋人出来たとか聞いてないっ!」
「今聞いたじゃん」
「そうだけど、そうだけどさぁ……」
ぶつぶつと言っているのを目の前でパックのジュースを飲みながら聞き流す。ちなみに味はマスカットだ。そして凪津が嘆いている理由は、好きだと言っていた人に恋人ができたらしい……ということだ。惚れっぽい凪津は何度も違う人を好きになっては、何度も失恋している。恋に一喜一憂していると言ってもいい。
「はぁ、何でいつもこうなんだ?」
「意外とモテるのにね」
「意外とって…。まあそれでも好きな人にモテないと意味がないんだけど……」
じゃあ、自分じゃだめだろうか、そう言いたいのに今の関係を失いたくなくて、顔を手で覆う君の前で口を閉じた。
「あっ!」
急な君の声にビクッとしながら、「なに?」と要件を聞く。
「次の数学の宿題やってない……」
失恋した時より絶望的な顔をする凪津を盛大に笑ってしまった。それを見た凪津は目を見開きながらも、「笑うな!」と言っていつもの調子に戻ったような気がした。
「ところで、ふゆ様。宿題見せてもらえたり…?」
「やだ」
うるさかったはずの教室のざわざわした雰囲気が今は好ましく思えた。
公園に並ぶ木々の隙間を風が通り抜け、木の葉がかすかに揺れている。この葉擦れの音が神聖なもののように感じた。
「へぇ、ふゆの好きな子はそんな子だったんだね」
また静さんに同じ公園で会うことができた。一か八かで寄ってみたらいると思わなくて、びっくりしたものの期待半分でいたせいか、より嬉しかった。
しかしなぜこんなことまで話してしまったのだろうか……
誰にも言う気がなかった心情を静さんには言ってしまったのだ。心の中にずっと埋まっていた感情が次々と芽を出すように……するといつの間にか瞳から雨が降っていた。
そんな姿をこの人はそっと見守っていた。
少しして心が落ち着き、このような姿を会って間もない人に見せてしまったことが、恥ずかしく思いながらも、静かにかつ穏やかに絵を描く静さんに見惚れていた。
そこでふと思ったことを口に出した。
「あれ?今日は松山さんじゃないんですね」
静さんのキャンパスには人影もなく、ただ、木漏れ日がさす木々が描かれていた。それでも美しく思えたこの風景画に密かに感動していた。
「…僕は元々風景画しか描かないよ」
「でも、僕が人を描くとしたらそれは…… “美しい” そう思ったからだろう」
どこか寂しそうに手を止めて言った言葉がずっと耳に残っていた。
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