ふゆの雪
isia tiri
one
今日、家の近くの公園で不思議な人に出会った。その人は絵を描いていた。そこには華やかで美しい人が描かれていた。周りには何も無い。何も無かった。だけど、それは幻想的で思わず目を奪われた。
そんな視線に気づいたのだろうか。その人は後ろを向いて、スケッチブックを胸に当て「えっち」と言って恥ずかしそうに笑った。
何故か恥ずかしくなって、あらぬ言い訳をした。年上だろうその人は余裕そうな笑みを浮かべ「綺麗だろう?」と言った。
「綺麗です」
そう答えたのはほぼ無意識だった。
「僕の美しい人なんだ」
そう言ったこの人は
初対面で色々話し込んで、名前を知り、静さんと呼ぶようになった。そしてこの絵の人も知った。
この絵の人は
静さんは松山さんを美しい人と言うが、きっと静さんの好きな人なんだろうと思った。なぜなら愛おしそうに描いて触って見つめているからだ。
それを見ていると凄く松山さんを羨ましく思った。
「ふゆ、ふゆか……いい名前だね」
「そうですか?」
「うん、僕は冬が好きだから…雪が降る日はもっと好きだよ」
そう言って空を見上げる姿をただ単純に美しいと思った。
表情も姿勢も仕草までが、簡単には触れてはいけないモノであると言っているように感じて、静さんが遠い存在のように思えた。
どことなく寂し気な雰囲気を持って、真っ白なスケッチブックに鉛筆を走らせた。その作業は見飽きることはなく、ずっと見ていたいとさえ思った。
一時間ほど経ったのだろうか。いつもは長く感じるはずの時間がこの時だけは短く感じた。黒と白だけで現わされた松山さんは花のようで蝶のようで、でも、力強かった。風の音が虫の音が雑音が何も聞こえないほどに取り込まれそうな『絵』だった。
「あの、失礼を承知して聞きたいことがあるのですが……」
「なに?」
「静さんって男性ですか? 女性ですか?」
そう言うと静さんは目を見開いて、すぐに意地悪そうな顔をして言った。
「…内緒」
人差し指を立てて口元に持っていく姿が優美で、性別を感じさせなかった。
ただそこには美しい人間が座っているのであって、 "かわいい" も "かっこいい" も似合わない、ただ “美しい” が似合う、そんな不思議な人だと思った。
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