第15話中身は問われていない
「あー……すまない。アルコールの影響だ。ヒーローらしくないところを見られてしまったな」
「そんなことはありません。人間らしいところを見せていただいて安心しました」
俺は苦笑いを浮かべる。
「ジェットセットハット様、左目の具合がよろしくないようですね。メンテナンスルームにご案内いたしましょうか?」
どうやらアンドロイドは俺の態度ではなく、ブルーに焼かれ腫れあがった俺の左目をことを気にしているようだ。
「いや、ありがとう。また博士に相談してみるから今はいい。それより俺のこのバトルスーツの着脱ってどうやるんだ?」
「それはですね……」
アンドロイドは俺の部屋に入ると壁面のパネルを操作する。すると部屋の床から白いカプセルのようなものがせり上がってくる。
「こちらに入るとスーツの着脱が自動で行われます」
「なるほど、じゃあ床にラグは敷けないな」
「はい。恐れ入りますがお部屋のレイアウト変更をされる場合は一度ご相談下さい」
「分かった。では今から脱ぐから待ってて貰えるかな?」
「かしこまりました」
またカプセルに入るのかよ。まあいいか。
ナノマシンのカプセルの時とは違い、全身をスキャンされるような感覚があっただけで特に不快感もなく、気が付けばバトルスーツは完全に俺の体から外れてカプセルに収納されていた。
「それでは私はこれで失礼します。何かありましたら遠慮なく呼んでください」
「わかった、色々ありがとうな」
アンドロイドはバトルスーツの入ったカプセルを軽々と持ち上げると部屋から出ていった。さて、とりあえず暑苦しいスーツも脱げたし、今度こそ風呂にでも入って、さっさと飯食って寝るか。
「あぁ……ヒーロー万歳……」
いつもはシャワーだけだった。
こんな風に湯に浸かるのは何年ぶりだろう。俺はそんなことを思いながら、ジャグジーの縁に頭を乗せ天井を見上げていた。
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
一方、アンドロイドからヘルメットを受け取ったミコモイオは、自室でその破損状況を確認しながら頭を悩ませていた。
「まさか……こんなことが……」
彼が手に持っているタブレットには様々な情報が表示されているが、どれもこれも理解に苦しむ内容だった。しかし、一つだけ理解できる情報がある。
それが彼の心をかき乱していた。
「……見てくれこの部分の陥没を……この形状は人間の指だ。つまりジェントリィスイーパーIXをここまで破壊したものはこれを素手でやったということだ」
「……」
「大きさから推測するに180cm前後の成人男性のものだろう。だが、何度見ても信じられん……セラミック複合材とグラフェンの混合素材で作られた強化装甲だぞ?それを……人間の手で……」
「……」
「それにだ。この部分、超高熱のレーザーで焼き切られたような断面をしている。これは恐らく高出力のビーム兵器によるものだ。そしてその出力は……」
「……」
独り言のようなミコモイオの呟きに背を向けたまま、ソファに横たわる人影はあくびをすると首の後ろを掻く。
「……それで博士よ。あいつは結局、誰なんだ?」
「ん?あいつとは……?」
「とぼけんなって。あの自称ジェットセットハットだよ」
「ああ……ふふふっ、彼は記憶を失ってるんだよ。自分を取り戻すためには周囲の温かい励ましが必要なんだ。君も優しくしてあげてくれ」
「ふざけるな。過去のジェットセットハットとDNAのパターンが一致していない。その他のデータもだ。指紋、虹彩、骨格など全てのデータが異なっており、別人だと証明されている。あいつはそこそこ腕力があるだけの肥満体の一般人でしかない」
「確かにそうかもしれないね」
「博士!あんたが連れてきたんだろう!?」
「落ち着けよ。中身なんてもんはどうでもいいだろう。自分のことをサイボーグだと思い込んでる頭のイカれたデブだろうが、はたまた詐欺師が我々を騙そうとしているのだろうが関係ない。ジェントリィスイーパーシリーズのデータさえ得られれば私はそれでいいんだ」
「……ジェントリィスイーパーが怪人に破壊され、ジェットセットハットが死んだということはあんたたちにとっては悪夢でしかない。しかし、ヤツは戻り、悪夢は辛うじて回避された。……そういうことでいいのか?」
「そうだ。君も会いに行ってみろ。以前のジェットセットハットよりも面白い奴だからな」
「……ああ、だが、奴の言うサイボーグ戦士とはどういうことだ。過去のジェットセットハットは改造手術など受けていなかったはずだ」
「さあな、自分のことを調べている間にネットの噂でも真に受けたんだろう。いや……そうだな、この際教えておこう。君たちには内緒にしていたが、ジェットセットハットは改造手術を受けていたぞ。包茎を治すためにな」
「な!?なんだと……知らなかった……お、おい!それより、あのデブにジェットセットハットの代わりが務まるのか?アンドロイドにでもやらせた方がマシなんじゃないか?」
「ははは、大丈夫だ。まあ、見ていろ。これからが楽しみじゃないか。何としてでも彼を使い物にしてやるさ……使い物にな」
「……」
人影は再びあくびを繰り返すと、自分を抱き締めるように両腕を回し、そのまま静かに寝息を立て始めた。
アパッシュ!~裏通りの怪人たち~ でぃくし @dixie_kong
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