第26話
魔法管理局内にある煌びやかな一室。
素人目でも高価であると分かる絨毯が敷かれ、その上には、光沢を放つ革で覆われた黒いソファが、ガラス机を挟むようにして二つ置かれている。壁には独特な雰囲気を持った絵画が飾られ、反対の壁には棚が並んで三つ。棚の中には陶器や妙な置物が見える。
そんな一室の中、その部屋の持ち主は一人の来客を迎えていた。
「ようこそ、お待ちしておりましたよ」
小太りの男は背丈の高い女性を部屋に招き入れ、彼女が着ていた毛皮の真っ赤なロングコートを丁重に受け取った。上着を脱いだ女性はソファへ腰かけ、上着を付き人に預けた男は反対側のソファへと座った。
「約束の時間よりも早めに着いてしまったけれど、ご迷惑ではなかったかしら?」
「お気になさらず、全然大丈夫ですよ。むしろ、早く来てくださったことで、面白いものが見れるかもしれません」
「面白いもの?」
女性は怪訝な顔で首を傾げた。
「ええ。先程、奏多君が貴方の側近に化けてやって来ましてね。何やらもう一人連れていて、その方も貴方の側近に化けていました。一体、何をするつもりなんですかねえ。それにしても、意外に奏多君はお馬鹿さんだ。ここは魔法を管理している場所だというのに、魔法で我々を騙そうとするなんて」
「……確かに、微量だけれど魔力の波動を感じるわね。これなら、局内の魔力センサーに感知されるのは当然ね」
男は小刻みに揺れながら笑った。奏多が何かを企んでいると知っていながらあえて放置しているのは、余裕があるからなのだろう。仮に奏多が魔法を使って局内で暴れ出しても、それを抑える術はこの建物の中には幾らでもある。魔法管理局が魔法に対して何の対策もないなど、あるわけがなく、そもそもそうでなければ奏多をここで生活させるなどするはずがなかった。
それに。もし奏多が予想以上に強力な魔法使いに成長していたとしても、目の前の人物がいる限り、男は自分に被害も危害も及ばない自信があった。
「まあ、奏多君のことは後でゆっくり観察させてもらうとして、先に近況報告の方を済ませてしまいましょうか、紀代子さん」
「ええ、お願いするわ」
魔法管理局局長と、現魔法使い代表の二人は、応接室で話合い始めた。局長から政府の現在の方針に基づいて、今後どのような魔法が必要になってくるかの話があり、紀代子はそれらを実現するための案を提示した。
合間合間で局長から無駄な世間話も飛び出すが、紀代子は全く相手にすることはなかった。話始めた局長も、完全に無視をしてくる相手に話を続けるほどの気概は持ち合わせていなかったようで、すぐに話を戻していた。
「さてと、今回はこれくらいでよろしいですかね。ではでは、奏多君たちはどうなったんでしょうか」
「どうやら、地下の部屋にいるみたいね」
「地下? ほほう、おそらくデータ管理室ですな。あそこは厳重に隠してあるはずだったんですがね。いやあ、そんなところに辿り着くなんて、さすがは奏多君。将来が楽しみですなあ。それにしても、一体何のデータを探りに行っているのでしょう?」
「直接本人に聞いてみれば早いでしょう」
紀代子は立ち上がって、扉の方へ右手の掌を向けた。一瞬、紀代子の右手が光ると、それに呼応して掌を向けていた場所も光り、人間大の光の柱を創り上げた。
柱の光が弱まり始めると、そこに一つの人影が浮かび上がってくる。ゆっくりと見え始めたその姿は、学校の制服に身を包んだ――
「じょ、女子高生、ですと!?」
「え、あれ? ここ、どこ? なんで、私こんなところに……、あ、さっきのおじさん。って、あ! やば、私、今魔法解いてるじゃん!? ば、ばれちゃう……ん?」
「初めまして、騒がしいお嬢さん。奏多を連れて来たはずのなのだけれど、どうして貴方が来たのかしら? ああ、変化の魔法のせいで奏多の魔力を纏っていたのね。だから、間違えちゃったんだわ。まったく、いい迷惑。奏多のガールフレンドかしら?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます