第二章 潜入そして邂逅
第23話
「いいか。魔法の効果は、約一時間。それまでに、魔法管理局内にあるパソコンから、おじさんについてのデータを探し出す。そして、それが終わったらここから脱出する。探すのにどれだけ時間がかかるのか見当もつかないからな、魔法をかけたら即座に動くぞ」
茉莉は首肯した。
若い男女は真っ白い建物を見下ろしながら、山の頂上で作戦会議を行っていた。とはいっても、先程奏多が言ったように、やることを確認するという程度のものでしかなかったが。
内部の構造は、奏多もあまり把握はしていない。自分が利用する部屋(管理されている部屋)はあるが、出口とそこまでの道程以外は見たことがないのだ。構造が分からないとなれば、具体的な策は立てられない。行き当たりばったりで望むしかないのである。
奏多の魔法によって、茉莉は優里奈の姿に。そして奏多は、側近の大男の姿へと変化した。服装は二人とも、黒スーツだ。
茉莉は何となく、奏多は長身痩躯の男の方に変化するのだろうと思っていた。身長は大分違うが線の細さは似たようなものなので、そう思ったのだろう。もしかしたら、奏多は大男の筋骨隆々な体系に憧れているのかもしれない。茉莉は横目で奏多を見ながら、微笑を漏らしていた。
「よし! 潜入開始だ!」
再び風魔法を使って二人は移動する。
建物の正面に降り立ちたいところだが、優里奈も男も魔法使いではない。風に乗って降りているところを目撃されれば、たちまち正体がばれてしまうだろう。
二人は建物から少しだけ離れた位置に降り立って、そこから徒歩で正面の入り口まで移動した。
入り口には門番的な立ち位置の者がいるのかと予想していた茉莉だったが、実際に行ってみると誰もそこにはいなかった。すんなりと入れるのか、と思ったがやはりそんなことはなく、視界に映る者ではない物から、誰何の音声が届いてくる。
『IDを確認します』
映画の中でしか見たことのない展開に、茉莉は狼狽した。
「IDってなに!? そんなの、持ってないんだけど」
「大丈夫だ、安心しろ。本来なら人体スキャンで登録されている人間かどうか判別するんだが――」
奏多は両手を入り口の上部に向けて、十本の指を無造作に動かし始めた。指の動きを速くすればするほど、人工的な音声が、機械的な音へと変わっていく。
「これで問題ない。魔法で人体スキャンの工程を飛ばさせた。データとしては、優里奈姉とこのおっさんがスキャンされたことになってるはずだ」
「魔法ていうよりか、ハッキングみたいじゃん」
「ハッキングよりか遥かに簡単だぞ」
それは奏多だからだろう。常人なら、そもそも魔法を使うという段階で断念せざるを得ない。
『認証完了致しました。ようこそ、魔法管理局へ』
アトラクションみたいだな。そんな牧歌的なことを思いながら、茉莉は自動でゆっくりと開いてく巨大な扉を眺めていた。しかしながら、楽観的な思考も、内部へと続く入り口が完全に開かれると、消えてなくなった。
もし、変化していることがばれたらどうなるのか。
今更ながら、甘くみていたのかもしれない。これまでの茉莉の人生の中で、危機的状況なんてものはそれなりにありはしたが、どれも失敗すれば、殺される、かもしれないという状況ではなかった。
だが今回は、いわゆる国家機密に近いものである。一般には知られていない魔法使いの存在、そしてそれを管理する魔法管理局なるもの。そこに、平凡で一般的な女子高生が潜入しようというのだ。ばれて、「次はないからね」なんてお許しを頂けるとは到底思えない。
高校生活、そして現在、どちらも同じ社会の中にあるけれど、そこにヒエラルキーは存在しているのだ。
上位であればあるほど、重要性と危険性は高くなってくる。
「でもまあ、ここまで来たら行くしかないよね」
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