くされの穀潰し

遊星ドナドナ

死にぞこない

「死にたいな」


 僕は親にメールを送る。この頃いつもはそんな内容だ。


 だけど

「じゃあ死ねよ」


 なんて優しく分かりやすく突き放してはくれない。出来ないのは十分承知だ。一応は親だし、何かの拍子でそのメッセージが見られた時に品性を疑われてしまうからだ。


『大丈夫?何かあったの?』


『そうなんだ。次は頑張ろうね』


『大事なことは忘れないようにしようね』


 いや何回目だと思ってるんだ。僕を何歳だと思ってるんだ?もう見捨てた方が早いだろ。

 僕に「次」なんかないんだよ。もう二十歳なんだぜ?それなのに知恵遅れのクソゴミの発達障碍者のガキに言い聞かせるような、何の責任もないセリフ。

そんなテンプレみたいな言葉を送ってくるぐらいなら、


「いっそのことボロクソに罵ってくれよって?」


 自分の中の「良心」が鼻で笑う。「良心りょうしん」だけに「両親りょうしん」の味方ですってか。


「そりゃそうだろ。虐待児の子らには悪いけどさ……」


 異常者か考えなししかほざかないであろう暴言を聞いても、やはり僕の良心は、セミの欠損死骸を見るかのように、動じずに僕を見据えている。


「嘘つけ。お前は本当にアホなんだな。自分を卑下する時にすら比喩表現を使わなければ気が済まない」


「済まないなら、どうなんだ」


「いちいち人にマウント取ってなきゃ、自分のそのクソみてえな被害者面も出来ないんだなってことだよ」


 枕を埋めて、僕は唸る。自分の「小ささ」すらも理解できない、五月蠅いだけの愚図な小型犬が、主人と他人の違いに構わず咆えるように。


「情けないよな」


「ああ、情けないな。やるべきことから逃げる癖に、逃げていいときに無駄に立ち向かって砕けようとする。お前は本当に人のはらから産み落とされたのか?」


「人だよ。生物学上は」


「いいや、そんな訳はない。人という存在に対しての冒涜そのものだ、お前は。アンタは昆虫と同じなんだ。そのおぞましい無謀さ。その心の醜悪さ。どうして人がお前を避けると思う。お前が害虫だからさ。ゴキブリってのは案外フォルムは整っているんだ。しかし人はそれを忌避する」


「そうじゃない人もいるだろ」


 あまりもの言い草に、僕はカッ、となって反論をする。良心の言うことは絶対なはずなのに。無駄な足掻きだ。


「だからなんだ?その一握りとお前が出会うことは一生とないんだ。あってたまるか。お前如きが温もりを求めるんじゃない。身も心も欲求のみで形作られているお前が、生命モドキが、クソ虫が。人に縋ろうとするな。見苦しい」


 見事に論破された僕は、文字通りカナブンのように激しく動かし、そうして、蛆虫がクソ喰い虫と肥えるように、汗と涙のしみ込んだ蒲団にくるまって眠りにつく。

 高校卒業祝いの粗品だった、デジタル時計が午前2時10分を示していた。

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くされの穀潰し 遊星ドナドナ @youdonadona

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