第27話 ヤンデレの友達たち
「行っちゃったけど?良かったの?」
俺はあの二人の進行方向を見つめながら、僕の後ろで優雅に座っているアイドル様に声をかけた。
てっきり一緒に行動するのかと思っていたし、香織に未練がないわけがない。
俺は正直どっちでもよかったけれど、結局は香織が心配で残ってしまった。
「いいの。あの二人が2人きりになれる時間を作りたかったし」
やけに大人な反応に俺は何となく心配になってしまう。
色々経験して、大人になったのか?
それとも、自分を抑え込むためにわざと大人を演じてるのか?
「ふーん?とか言って、俺と2人きりになりたかったんじゃねーの〜?」
どちらにしたって香織に似合っているとは思えなくて、俺はおちゃらけることしか出来ない。
そんなはずあるわけないようなことを言って、いつも通り香織に冷たくあしらわれるのだ。
冷静になって、何やってるんだろうと虚しくなることが無いわけじゃないけど香織の心持ちが少しでも軽くなるなら俺の一時の虚しさなんて気にするほどのものでもない。
「な、何言ってんのよ!?」
そう、ここでいつもならはいはい、とか言ってあしらわれるはずなのだ。
どうしてそんなに一生懸命否定するんだ?
その反応は優希にしか見せないようなものだろう。
「いや…いつも通りふざけてただけだけど」
その反応をされるとこっちが狂わされるんだが…。
だってなんだか勘違いしてしまいそうじゃないか。
香織が少しでも俺の事を男として意識してくれてるんじゃないか、とか。
「そ、それならそうと早く言いなさいよ!」
顔を少し赤らめて怒ったような顔をする香織に戸惑う。
待て、これは本格的に勘違いしてしまう。
そんなの…そんなこと一切有り得るわけが無い。
「香織?もしかして、本当に俺の事…」
自意識過剰だと思いたくは無い。
これまで誰よりも香織を見てきた自信のある俺がそんな勘違いをするとは思いたくない。
その分、香織の優希への思いを知っているから信じがたくもあるけれど。
「な、何よ…。あんな告白しといて…意識しないわけないでしょ?」
顔をぷいっと背けて、香織は言った。
意識してもらえた、香織に男として意識された…。
それだけのことのはずなのに、こんなにも嬉しいのはどうしてなんだろう…。
「やべえ…さすがに嬉しい」
俺は口元を隠して、嬉しさを噛み締めた。
ほかの女子に好かれても心が動くことはほぼなかった。
でもやっぱり香織が少しでもこっちを向いてくれた気がしただけでどうしようもなく嬉しかった。
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自分でもどうして着いて行かなかったのか、分からない。
でも、何となく2人を2人きりにしてあげたいという気持ちと自分が長谷と2人きりになりたいという想いが浮かんでしまったのだ。
自分でもありえないと思うし、考えたこともなかったけれど長谷を意識してしまっているらしかった。
「行っちゃったけど?良かったの?」
案の定、長谷は私に合わせて下で待ってくれるらしかった。
2人の背中を見送ったあと、私の顔を不安そうに覗き込む。
自分の気持ちなんて後回しなんだから…バカみたい。
「いいの。あの二人が2人きりになれる時間を作りたかったし」
半分本心、もう半分は―。
意地でも、長谷には言ってやらない。
だって、絶対調子に乗るし…それに恥ずかしいし。
「ふーん?とか言って、俺と2人きりになりたかったんじゃねーの〜?」
ふざけた口調で言ってきた長谷に動きが止まってしまう。
いつもの冗談で言っているだけなのだろうから、私もいつも通りあしらえばいいのに。
それが出来ないのは図星をつかれたからだ。
「な、何言ってんのよ!?」
なにか言わなきゃ疑われると焦って声を出す。
でも、その声は上ずっていて余計に怪しくなってしまった。
これじゃあ、はいそうですと認めているようなものだ。
「いや…いつも通りふざけてただけだけど」
長谷が戸惑ったように言う。
そりゃそうだ、彼はいつも通りふざけて空気を和ませようとしてくれただけなのに。
私ったら変に意識して恥ずかしい…。
「そ、それならそうと早く言いなさいよ!」
理不尽に怒りをぶつける。
とにかく顔に熱が集まって、どんどん恥ずかしさが増していく。
それを発散させるために、何故か長谷に大して怒ったような口をきいてしまった。
「香織?もしかして、本当に俺の事…」
いつもと様子が違いすぎる私に何かを勘づいたらしい長谷は真剣な顔で私を見た。
言わせないでよ、ふざけてるけどそういう勘は鋭いんでしょ…。
わかってるなら、そのままの意味で受け取っていいから…。
「な、何よ…。あんな告白しといて…意識しないわけないでしょ?」
それでも視線を外そうとしない長谷に私は言ってしまった。
顔の熱がさらに高まる。
でも、ここまで回復できたのは紛れもなく長谷のおかげだから…。
「やべえ…さすがに嬉しい」
そんな声が聞こえてきたけれど、私は視線を長谷の方に向けることができなかった。
だって、向けたら赤く染った頬を見られてしまうから。
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