第25話 ヤンデレの修学旅行

「うお、金閣寺って本当に金色なんだな…」


僕たちは京都に来ていた。

そう、修学旅行である。

僕は、藤宮と長谷と3人で回っている。


「あれ、優希くんは来たことないの?」


藤宮が写真を撮りながら言う。

僕はその問いにこくりと頷いた。

それに同意するように長谷も頷く。


「中学の頃は、沖縄だったんだよなぁ。関西は初」


長谷が言うと、藤宮は驚いたように目を見開いた。

そんな驚くことあったかな…。

とは思いつつ、あまり見られない藤宮の表情だったので写真に収めておくことにした。


「な、なんで今写真!?」


慌てたような藤宮に僕は笑って、応える。

カメラを奪ってこようとするけれど僕はひらりとかわして奪われないようにした。

すると長谷が少し冷めた目で僕たちを見ている。


「俺もいるんであんまりイチャつかないでもらっていいですか〜?…ってあれ?」


ふざけたように言った後、長谷はなにかに気づいたように視線を僕たちの後方に向けた。

僕たちも釣られるように後ろを見ると、そこにはよく見知った姿があった。

見覚えのあるツインテールの女子。


「香織?」


僕が声をかけると、彼女はこちらを振り返った。

こちらに気づいて、驚いた顔をしている。

僕たちも結構驚いているけれど。


「あれ?何よ、みんな揃って…制服だし」


香織は近づいてくると、僕たちを見回してそう言った。

藤宮も長谷も心なしか顔が緩んでいる。

みんな香織のことが好きらしい。


「修学旅行だよ、香織こそ私服で何やってんの?」


みんなを代表して長谷が答える。

すると、香織は胸を張って得意げな顔をした。

僕たちは何を聞かされるのか分からないまま、耳を傾ける。


「撮影の下見よ!映画に出るんだからっ」


さ、さすがアイドル…。

ごく普通の高校生の僕たちとは生きてる次元が違う…。

でも、周りに人が見えないのが疑問だ。


「すごい!ひとりで来てるの?」


今度は藤宮が僕の疑問を代弁してくれた。

すると先程までの威勢はどこへやら香織はがっくりとうなだれる。

相変わらず感情が目まぐるしく変わるな、香織は。


「友達はみんな忙しい人ばっかりだし…。マネージャーさんはグループ全体のマネージャーさんだから私の都合だけで連れ回す訳にもいかないし…。ひとりで来るしかなかったのっ!」


香織が泣きそうになりながら言う。

なるほど、色々あってひとりでしか来れなかったのか…。

と、そこまで考えてある問題点に気づいてしまった。


「香織、お前方向音痴じゃなかったっけ?」


僕の言葉に香織がぎくっと体を強ばらせる。

どうやら図星のようだ。

うん、確かにちっちゃい頃から香織は方向音痴だった。


「だ、大丈夫よ!もう、17なのよ…?」


香織が目線をさ迷わせながら言う。

確実に大丈夫では無い表情だ。

相変わらず強がるところも変わらない。


「大丈夫じゃないんだろ〜?一緒に回ろうぜ」


長谷が、香織の肩をつつきながら言った。

すると、香織は頬を少し赤く染めてそっぽを向いた。

僕たちも同意するように頷くと、香織はふん、と鼻を鳴らした。


「そ、そこまで言うなら…。一緒に回ってあげてもいいわよ?」


というわけで、僕たちは4人で京都を巡ることになった。

少し不安に思っていた香織との会話もなんとか気まずくなくできている。

それは、精一杯の香織の優しさだと気づいているけれど。


「なんだか嬉しい!高校の修学旅行は女の子とは歩けないと思ってたから」


藤宮が少し笑顔に寂しさを滲ませながら言った。

言われた香織は少し不思議そうに首を傾げてから、僕にアイコンタクトを送ってくる。

僕は、軽く頷いてそれ以上は詮索しないで欲しいと目で伝える。


「そうねぇ。あ、これどう?ちょうど2色だし色違いのお揃いで」


香織が土産物に並んだキーホルダーを指さす。

その提案に藤宮は目を輝かせた。

核心には触れずに相手が1番喜ぶことが出来るんだから香織はやっぱりすごいなと思う。


「いいの?私なんかとお揃いなんて…」


藤宮が言うと、香織はもう既に手にキーホルダーを握っていた。

ふたつ手に取り、片方を藤宮に手渡す。

そして、優しく微笑んでみせた。


「嫌だったら言ってるわけないでしょ?私だって一緒に買いたいから言ったの!」


藤宮が満面の笑みを見せる。

でも、その目の端に光るものがあったのは僕だけが気づいていたはずだから内緒にしておいてやろうと思う。

藤宮にとっても香織はかけがえのない存在なのだとわかった。


「まだ続くのな〜。俺はこの辺で休憩したいけど」


「私は上まで行ってみたいかなぁ」


「僕も上まで行こうと思ってた」


「私はパスね〜、足がくたびれちゃった」


ここで4人の意見が真っ二つに分かれた。

僕と藤宮は先まで行きたい、長谷と香織は休憩したい。

相談の結果、二手に分かれて後で合流することになった。


「じゃあ、行くか」


僕の呼びかけに、藤宮は頷く。

少し距離のある歩き方に不自然に思いながら進む。

いつもだったら隣を歩いてるのに…。


「香織ちゃんは、私と優希くんを見て何も思わなかったのかな…」


藤宮がポツリとつぶやく。

距離を空けていたのは、香織を気にしていたかららしい。

大切に思えばこそ、悩みも尽きない…ってことだろうか。








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