第24話 ヤンデレの友達
僕は香織と別れた。
それは、別に香織を嫌いになったからじゃない。
香織は大切だし、好きだ。
「おはよう、藤宮」
僕は一人、自分の席に座っていた藤宮に声をかけた。
藤宮は振り返ると、可憐な笑みを見せる。
とてもぼっち生活を送っている人とは思えない笑顔だった。
「おはよう、優希くん」
藤宮は元々、友達は多くなかったし本当の友達と呼べる人はいなかったらしいけれど、それでもぼっちではなかった。
彼女がこうして僕が学校に来るまで一人きりになってしまったのには、色々理由があるのだけれど。
そのことを話すのはまた今度にしたい。
「長谷が、藤宮と話したいって言ってるんだけど…」
僕は遠慮がちに伝えてみる。
この間、午後の授業を放り出して2人で遊んだあの日。
長谷が、藤宮と話したいからセッティングしてくれないかと頼んできたのだ。
「長谷くん?別にいいよ、多分嫌われちゃってるし」
藤宮が諦めたような顔で笑う。
僕は藤宮のそんな顔を見たくなくて、僕らしくもなく声のトーンをわざと明るくした。
それでも不自然には思われない程度に。
「そんなわけないだろ。合コンの誘いだったりして」
おどけたところで藤宮の顔に前のような笑顔は戻らない。
僕は今まで藤宮に何度か支えてもらったことがある。
その時に決めたのだ、藤宮に支えが必要になったら迷わずにその役を引き受けようと。
「わかってるの。でも、一番私を恨んでるのはきっと香織ちゃん。もう、顔合わせられない」
藤宮がぎゅっと拳を握る。
掴んだスカートの布地がしわを作っている。
僕は歯がゆくなりながら、自分の立ち回りの下手くそさに苛立った。
「こんなこと、僕が言ったって説得力ないかも知れないけど、香織は簡単に人を嫌ったりするような人じゃない。藤宮のことも大切に思ってたし、何より僕の勝手な心情の変化なんだ。藤宮が嫌われる筋合いはないだろ」
香織のことを嫌いになったわけじゃない。
むしろ、好きだ。
だからこそわかってくれると信じた、それに香織のことは長谷が幸せにすると宣言してくれたし。
「香織ちゃんは、大好きな女友達だったから…。そうだと…いいな…」
苦しそうな藤宮の表情に、僕も胸が締め付けられる。
とりあえず長谷と話す約束を取り付けて、それぞれ授業に臨んだ。
僕は藤宮の支えになれているんだろうか、正直自信はない。
自分の気持ちだってよくわからないままだ。
香織が好きだった気持ちは本当だし、今だってなくなったわけじゃない。
でもそれと同じくらい藤宮のことも大切だと感じる。
僕は、浮気者の二股男なんだろうか。
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「あ、藤宮ちゃーん!ごめんね〜」
長谷が藤宮に向かってぱんっと手を合わせる。
いつも通りの軽いノリに僕は胸をなでおろした。
藤宮も表情をほころばせながら、首を横に振る。
「でも、長谷くんに呼び出されるなんて珍しいから少し驚いたけど」
藤宮が言うと、長谷もうなずいた。
そうだ、長谷のこのノリならわざわざ呼び出さなくたって藤宮に直接会いに来そうなものなのに。
わざわざ呼び出したのはなんの理由があるのだろうか。
「そーだよね、本当は用事があるのは俺じゃなくてさ。…出てくれる?」
長谷は自分のスマホをポケットから取り出して、藤宮に渡した。
どうやら電話が繋がっているらしく、藤宮はスマホを受け取ると恐る恐る耳にスマホを近づけた。
そこからは、長谷に連れ出され僕はよく会話の内容を知らない。
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「もしもし…」
恐る恐る耳にスマホを当てた。
相手にはなんとなく見当がついていて、だからこそ余計に出るのが怖かった。
ついに来たんだ、唯一の女友達を失う瞬間が。
『もしもし、藤宮さん?』
その声に心臓がバクバクと鳴り出す。
何を言われるんだろう、でも何を言われても仕方がない。
それはずっと前から覚悟していたことだ。
「うん、藤宮です。香織ちゃん…だよね?」
確実にわかっているのに、何故か聞いてしまった。
すると、受話器の奥で軽く笑う声が聞こえてくる。
この笑い声、懐かしい。
『そうだよ、香織だよ〜。今日は藤宮さんと話したくて長谷にセッティングしてもらっちゃった」
その声には怒気が含まれているわけでもなく、いつも通りの香織ちゃんの可愛い声だった。
それでもまだ安心するのは早いと身構える。
だって嫌われていないことなんてあるはず無いんだから。
「怒って…ないの?」
私はビクビクしながら尋ねた。
そんなわけがないとわかりながら。
私は香織ちゃんから優希くんを奪った女なんだから。
『この泥棒猫!』
受話器越しに香織ちゃんの声が聞こえる。
やっぱり怒ってるんだ。
私なんかとはもう友達ではいてくれない…。
『とでも言うと思った?』
「へ?」
香織ちゃんの問いに素っ頓狂な声が出る。
『怒ってない。そりゃ、ショックだったけどね?でも優希のことも藤宮さんのことも人よりは知ってるつもりなんだ。だから、2人が私が怒るような理由で一緒にいるわけじゃないことくらいわかってる。だから、安心して優希といてね。私だって仕事にね、学校にね、色々忙しいんだから!藤宮さんは、大切な友達だしね」
涙が溢れて止まらなかった。
私を信じて、許してくれる人がいる。
それだけで、少し救われたような気がした。
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