第21話 アイドルと文化祭

「いらっしゃいませー!」


文化祭当日、私のクラスは喫茶店という定番さと生ドラマという斬新さが相まってたくさんのお客さんで賑わっていた。

私は接客をしながら、出入り口をちらちらと確認する。

まだ探している人の姿は見えない。


「香織!彼氏探してるの?」


友達がそんな私の様子に気づいて、駆け寄ってきてくれた。

声の大きさにビクッとしながらも、頷く。

こんなことなら時間、決めておけばよかったな…。


「そう…なんだけど…」


私が落ち込み気味に言うと、友達がぽんっと私の肩を叩いた。

優希、今頃何してるのかな…。

本当に来てくれるのか不安になってきた…。


「大丈夫だって!香織の出番までに間に合うと良いね」


友達の言葉に頷く。

話を聞いてもらえるだけで安心する自分がいる。

私の出番まであと30分。


「優希…」


伝えなかった私も悪いけど、優希に見てほしいな。

そんな願いを込めながら出入り口を見た。

すると、そこに待ち望んでいた人の影が見える。


「優希!」


私は、優希に駆け寄る。

すると、優希がほほえみながら私に手をふる。

久しぶりな彼の顔に私は安心して、周りの人なんて見えなくなった。


「よ、久しぶり」


電話越しにも声を聞いたけど、やっぱり本物の優希は他にも何にも変えられない。

出番に間に合ってくれてよかった。

優希に見てもらうために、仕事の合間に練習したんだもん。


「優希、これから私の見せ場だからよく見ててね」


優希を席に案内して、意気込む。

すると、優希は頷いてから少し表情を曇らせた。

私はその表情の変化を見逃さずに、首を傾げる。


「どうしたの?」


私が問うと、優希は自分の表情に気づいたらしく笑顔に戻った。

私はなにか無理をしている気がして優希の顔を覗き込む。

すると優希は首を振った。


「あとで、二人で話せるか?」


優希の言葉に頷く。

言われなくても自由時間は優希と過ごす予定だった。

でも、今日の話は悪い話な気がして少し胸騒ぎがする。


「わかった」


何を言われても大丈夫。

二人の気持ちが繋がっていればどんな話をされても切れるわけはない。

気になったけれど、もうすぐ私の出番なので準備のために優希から離れた。


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「それでは御覧ください」


ナレーターの人の声に合わせて、私は舞台に立った。

観客から拍手が起こる。

観客の中に優希の姿を見つけて、深呼吸をしてからはじめのセリフを口にした。


「私の夢は、アイドルになること!みんなの心を輝かせるアイドルになるの!」


私の役はアイドルを夢見る女の子。

そこから徐々に夢を叶えていく役。

まるで私のために書いてくれたみたいな脚本だ。


「ありがとうございました!」


生ドラマは無事に成功した。

私は一安心して優希の姿を確認する。

笑顔で頷いている優希と目が合ってホッとした。


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「優希!休憩時間だよ!」


着替えを終えて、優希に駆け寄る。

私はウキウキ気分だけれど、優希の顔はやっぱり浮かない。

今日の優希の浮かない顔の原因はなんなんだろう。


「うん、行こうか」


でも優希は必死にその様子を隠している様子でだから余計に気になる。

私に隠したいことってなに?

優希は何を私に気づかれないようにしてるの?


「優希、なにかあるなら最初に言って」


このまま気になったままでなんていられない。

私が優希の袖を掴んで言うと、優希は辛そうに顔を歪めた。

どうしたの、何を伝えられないでいるの。


「今、聞きたい?」


優希の問いに私は頷いた。

絶対いい話ではないんだろうけど、このままスッキリしないでなんていられない。

すると、優希は意を決したように口を開いた。


「別れてほしい」


優希の口から紡がれた言葉に思考が停止する。

なんて言った?

幻聴、聞き間違い、勘違い?


「優希?あー、やっぱり話聞くの後にしようかな」


ごまかすように、優希の腕をつかもうとした手が震える。

なんで、そんなこと言うの?

やっと思いが実ったばっかりじゃん。


「だめだ、誤魔化してほしくない。聞こえなかったならもう一回言う。別れて―」


「嫌だ!!」


優希の言葉を遮るように私は声を張り上げた。

別れたくなんかない。

こんなに、こんなに優希のこと好きなのは私だけなはずなのに。


「嫌だよ、ずっとずっと好きだったのに。どうしてそんな事言うの?」


優希の腕にすがりつくようにして言う。

みっともないと自分でもわかっているけれど、止められない。

優希が好きだという気持ちだけが私を突き動かす。


「僕も香織が好きだよ。だからこそ、一緒にいられない」


そんなの意味がわからない。

私のことを好きな気持ちがあるなら一緒にいてくれたらいいのに。

離れる理由なんてどこにもないはずなのに。


「どうして、一緒にいてよ。優希にいてほしいのに…」


私が言うと、優希は私から目をそらした。

そして、私の手をそっと離す。

私の手に伝わっていた優希の温もりが離れていって、段々と絶望が現実味を帯びていく。


「今は、藤宮のそばにいてやりたい」


その言葉ですべてが終わった。

きっと、優希の気持ちは変わらないんだろう。

私が何を言ったって、今の優希にとって私よりも藤宮さんが大切なんだと。


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