第17話 アイドルと勘違い

「はぁ…疲れた…」


ダンスレッスン終わり。

私は息を吐きながら、時計を見た。

今日は午前中に入っているダンスレッスン以外は仕事はない。


「お疲れ様。今日はこのあと、休めるね」


マネージャーさんが私に水を手渡しながら笑いかけてくれた。

学校には事前に休む連絡を入れてあるし、今日はこのあとフリーだ。

家に帰って、シャワーを浴びて、少し休んで学校が終わる頃になったら優希に会いに行こう。


「はい!」


私はマネージャーさんに元気よく返事を返しながら、そう決心した。

優希には転校してから会えていない。

数えてみればもう一ヶ月は余裕で過ぎているのだ。


「じゃ、用意できたら家まで送っていくから言って」


マネージャーさんの言葉に頷く。

マネージャーさんは優希と会うことを良くは思わないだろうけれど、優希に会えるかどうかは私のモチベーションに大きく関わる問題だ。

内緒で、会いに行っちゃおう。


「用意できました!」


ダンスレッスンが何時に終わるか分からなかったから連絡は入れてないけど、いきなり会いに行っちゃおう。

びっくりしてる優希の顔、早く見たいな。

ウキウキしながら、マネージャーさんの車に乗り込む。


「なんか機嫌いいね」


マネージャーさんの言葉にドキッと鼓動が大きく鳴った。

私はごまかすようにあはは、と笑う。

ここでバレたら全部台無しだ。


「久しぶりの休みですから!ゆっくり寝れるなぁって思ってただけです」


私の言葉にマネージャーさんもそうだね、と頷く。

どうやらあまり疑われてはいないようで安心する。

それもこの一ヶ月間、優希との関わりを遮断してからかもしれない。


「ありがとうございました!」


「うん、ゆっくり休んでね」


マネージャーさんの車を見送ってから家の中に入った。

すっかり普通の高校生とは変わった生活リズムに、なんだか今更不思議な気分になった。

優希たちは今、まさに授業を受けている時間なのに私はこうして家でゆっくりしているのだ。


「何着て行こっかな〜」


シャワーを浴びて、服を時間をかけて選ぶ。

久々に会うんだし、可愛いって思ってもらいたいもんね。

私は何通りかのコーデとにらめっこして、やっと着ていく服を決めた。


そこから、少しうたた寝をしてしまって気づいたらもうすぐ学校が終わる時間になっていた。

私は着替えて、身だしなみを整える。

ちょっと、早いけど校門のところで待ってよう。


ルンルン気分で学校までの道を歩いた。

優希と通った通学路を懐かしみながら歩いていたせいか、校門についた頃には生徒たちがぞろぞろと出てきている。

私はそこに、見つけてしまった。

二人で歩いてくる優希と藤宮さんの姿を。


✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰⋆。:゚・*☽


僕はぼーっと、黒板を見つめていた。

何やら文字が並んでいるけれど、内容が全く頭に入ってこない。

香織と会えていない期間が一ヶ月を過ぎ、僕の頭はもはや考えることをやめたらしい。


「優希くん!」


肩をゆすられて、我に返る。

周りはなんだか騒がしくなっていて、もう放課後なのだと気づいた。

ぼーっとしているうちに、一日が終わっていたらしい。


「最近元気なさすぎ。香織ちゃんに会いに行ったんじゃないの?」


そして僕の肩を揺すったのは藤宮だったらしく、心配そうにこちらを覗き込んでいる。

そうだ、藤宮に助言を受けて僕は香織に会いに行こうと決めた。

でも、香織は僕なんかにかまっている暇がないほど忙しそうだった。


「それが、会えなかったんだ」


僕の言葉に、藤宮はため息を吐いた。

そりゃそうだ、今の言い方じゃ僕が勇気を出せずに香織に会いに行くことを躊躇しているように聞こえる。

実際、その状況にかなり近いから僕は何も言えなかった。


「わかった。じゃ、今日の放課後は私に付き合って!買い物行きたいの。荷物持ち、ね?」


藤宮の言葉の奥に優しさが見える。

僕を元気づけようとしてくれているのがよくわかった。

だから、僕もその気持に応えることにする。


「わかった。あんまり重いもの、買わないでくれよ」


すると、藤宮は表情を明るくした。

香織に会いたい。

その思いに変わりはないけれど、なかなか実現しないその願いは最近僕を苦しめ始めている。


「良かった。断られたら、家までついていって優希くんの行動をウォッチングしなきゃいけないところだったよ」


相変わらず、ヤンデレ要素はあるものの藤宮の存在は僕を支えてくれていた。

だから、思う。

藤宮に支えが必要になったら、僕は全力でその役目を果たそうと。


「行くか」


藤宮に声をかけて、学校を出る。

僕は、校門の向こう側に見つけたのだ。

こちらを見つめて苦しそうに顔を歪める香織の姿を。


「香織!」


僕は、名前を呼びながら香織に駆け寄る。

僕のあとに、藤宮も続いた。

久しぶりすぎて何を話したらいいのか分からなくなりながらも一番気になるのは香織の表情が冴えないことだった。


「ぁ…、優希、藤宮さん。やっほ」


香織は無理に作った笑顔で手を上げた。

僕はソワソワしながらも、香織の顔を覗き込む。

香織は久しぶりに会えたことが嬉しくないのか?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る