底辺アイドルがバズりアイドルになるまでの話
第10話 アイドルとバズり
「優希、おはよ!」
付き合い始めてから香織は愛情表現を欠かさない。
人前でも、恋人らしいことをするのに抵抗がないらしい。
僕も人目には無頓着な方なので、特に気にはしていない。
「おはよ」
今日は僕の家の外で待っていたらしい香織が手を伸ばしてくる。
僕はその意を汲み取り、手をとる。
そして、そのまま手を繋いで学校への道を進む。
「おはよーん、あちーねぇ」
そう言って僕たちの後ろからぬん、と顔を出したのは長谷。
付き合い出してから何が1番大変かと言えば、長谷からのからかいを受け流すこと。
そして、もうひとつ。
「おはよう、今日も彼女でいられる香織ちゃんの代わりに私は昨日優希くんが使ったストローを大事に持ってるね」
藤宮のヤンデレが悪化したことだ。
悪化したからと言って、僕や香織に直接何かしてくることはないし友人関係は続いているわけだけれども…。
付き合い始める前は隠していたであろうストーカーもどきな行動も開き直って全て口にするようになった。
「はいはい、わかったから!教室に入れて!」
そんな2人を押しのけて、僕達は教室に入った。
すると、クラスの女子たちがスマホ片手に僕たちを囲んだ。
その顔は好奇心と興奮で満ちている。
「香織ちゃん、見たよ!踊ってみた、めちゃバズってるじゃん!!」
囲んだ中の1人の女子が香織に言う。
香織はアイドル活動の一環として一緒に活動しているメンバーとYouTubeに動画を投稿している。
そういえば昨日の夜に投稿された動画は香織がソロで最近流行りの曲に合わせて踊るいわゆる「踊ってみた動画」だったっけ。
「あ、今朝マネージャーさんから連絡あった!いい感じの再生数だって」
香織が思い出したように、そう言った。
ふーん、僕は投稿されてからすぐに見たからそこからの反響とやらはよく分からない。
そんなに再生されてるのか。
「アイドルやってるのは知ってたけど、こんなにバズっちゃうとはね〜!スターになっちゃったりして!」
女子がキラキラとした瞳で言う。
香織はアイドル活動にやりがいを感じているみたいだし、それは喜ばしいことだ。
僕が微笑ましく見守っていると、女子がニヤニヤしながら僕の方を見る。
「そうなっちゃったら大変だね、彼氏くん」
人前でも臆することなく、手を繋いだりする僕達はいつの間にかクラス公認のカップルのようになっていた。
それは別にいいのだけど、香織が有名になったら何が大変なのだろうか。
もちろん香織の仕事量が増えて、香織が大変になるのはわかるけれど僕が大変になることなんてあるのか?
「だって〜、忙しくなったら会う時間も減っちゃうし〜」
「芸能界なんてイケメンの宝庫だしね〜」
「さすがの香織でも心変わりしちゃったりして!」
などと言って、女子たちがキャッキャッと盛り上がっている。
会う時間は家が近いからいくらでも確保できるだろうし、香織がそんなに簡単に心変わりするとは思えない。
だって、僕を何年間も想い続けてくれていたのだから。
「そ、そんなの絶対ありえないから!!」
香織が、女子たちの声を遮るようにバンっと机を叩いた。
僕を安心させようとしてくれているのか、真剣に僕の顔を見つめながら香織は言った。
やっぱり香織の目に嘘はない。
「どんなにかっこいい人がいても世の中に優希以上の人なんていないし!」
完全に言い切った香織に先程まで盛り上がっていた女子は静まり返っている。
そして、やがてその顔はニヤニヤという顔つきに変わっていく。
僕はその雰囲気に首を傾げる。
「あついね〜、ラブラブだ〜」
どうやら僕たちをからかう方に話は進んでいくらしい。
僕はため息をつきながら、騒がしくなった教室の雰囲気に紛れて香織の腕を自分に引き寄せた。
そして誰にも聞こえないように耳元で囁く。
「放課後、暇なら一緒にどっか行かない?」
学校だとずっとこんな調子で2人でゆっくり話す時間もない。
放課後にゆっくり2人の時間を作る以外に落ち着く術はなさそうだった。
すると、香織は僕の誘いに満面の笑みで答える。
「うん!」
元気のいい返事に僕まで笑顔になる。
と思っていたら、香織の腕を掴んでいる方の逆の腕を誰かに掴まれた。
と思ったら藤宮が自分の腕を僕の腕に絡ませていた。
「あら残念、香織ちゃんが断ったら私が優希くんと出かけようと思ってたのに」
「そうだよな〜、優希を断ったかおりんを俺が誘ってOKもらうはずだったのに〜」
藤宮と長谷のいつも通りのおふざけが始まる。
僕はいつもこれを受け流しているのだが、香織は面白いくらいの一つ一つにムキになる。
僕はそんな香織の姿を見ているのが好きだ。
「もう!優希は私の彼氏なのよ、藤宮さん!長谷も、私が優希の誘い断って長谷の誘い受けるわけないでしょ!?」
すると、藤宮は拗ねたように唇を尖らせ長谷は分かりやすくちぇっなどと言ってみせる。
僕はその様子を見て笑う。
どこからどう見ても幸せに満ちた、平和な空間だった。
「ほら、先生来るから座れよ」
僕は、こんなメンバーと過ごせるこんな毎日がいつまでも続けばいいと思った。
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