第7話 無関心、家へ行く

「はぁ〜、あっちー!」


日差しが強まってきた帰り道、長谷がシャツの襟をパタパタさせながら叫ぶ。

確かに、暑い...。

僕も太陽を手で遮りながら、顔を顰めた。


「確かに、汗が出てきそう...」


そう困り気味に言ったのは、藤宮。

あの日、僕が藤宮を昼ごはんに誘ってからというもの行動を一緒にすることが増えた。

長谷、藤宮、香織、僕がイツメンと言うやつだ。


「じゃあ、私の家で涼むっていうのはどう?アイスとスイカあるよ!」


香織が手をぱちんと合わせながら、目を輝かせた。

なんて魅力的な提案なんだ。

僕達3人は迷うことなく、頷いた。


「助かる」


僕が言うと、香織はにこっと微笑む。

長谷はなんだかそわそわと動き続けている。

何やってんだ?


「よ、よく考えたらかおりん家って初めてかも...!」


長谷が焦ったように口にする。

よく考えなくても、中学の頃からの仲だが長谷が香織の家に行っているところは見たことがない。

でも、何をそんなに焦ってるんだ...?


「優希くん、長谷くんと香織ちゃんが仲良くしてるみたいだから、私と仲良くしよ?」


藤宮が僕の肩に頭を預けながら上目遣いで言ってくる。

長谷と香織が仲良く...?

全くそう見えなかったのは僕だけ...?


「ちょっと、私の家なんだから!優希、うち来るの久しぶりだね」


香織がなんだか頬をふくらませながら、藤宮を僕から引き剥がす。

僕は、特に気にすることなく香織の言葉に頷いた。

小学生の頃までは宿題を一緒にしたり、ゲームをしたりした記憶がある。


「そうだな、4年ぶりくらいか?」


僕が首を傾げると、長谷と藤宮が僕の方をじっと見ている。

どちらも少し不機嫌そうなのが面倒くさい。

僕が気にしないでいると、長谷が唇を尖らせた。


「あーあ、かおりんの幼なじみなんて役得にも程があるよなぁ!今や、アイドルだぜ??」


長谷が頭の後ろに手をやりながら言う。

そうなんだろうか、僕からしたら当たり前のことだったからあんまり深く考えたこと無かったな...。

確かに香織のファンからしたらとんでもない状況なのかもしれない。


「私は...優希くんの幼なじみっていうのが羨ましい。そしたら家の特定だって簡単にできるし、家に帰らなきゃいけないギリギリまで優希くんを見ていられる...」


思考が怖い...。

その、たまに出てくるヤンデレっぽい発言はなんなんだろうか。

本当にやってる訳じゃないよな...?


「ほらほらストップ!着いたから、長谷と藤宮さんは部屋行ってて!優希は手伝って?」


香織は未だにぶつぶつと言い続けている2人を自分の部屋に押し込んだ。

そして、その後に僕の方を見つめてくる。

休ませてもらうんだし、手伝うくらいどうってことないけど。


「別にいいよ」


僕が言うと、香織は満面の笑みで僕の腕を引っ張る。

そんなに嬉しがることか?

よっぽど1人で作業するのが嫌だったんだな...。


「やっと、2人きりになれたね」


麦茶をコップに注ぎながら、香織が言った。

頬を赤らめながら、香織が放った言葉に僕はなぜかドキッとしてしまう。

僕は視線をそらして、心を落ち着かせた。


「そうだな、最近ずっと4人だったし」


首に手を当てて、僕は何事もないようなフリをする。

何を動揺してるんだ。

幼なじみと話してるだけじゃないか。


「優希が急に藤宮さんと仲良くなったしね。お昼に誘った時は、びっくりしたもん」


そう言う、香織は淡々とスイカを切っている。

香織は今、どんな気持ちなんだろう。

最近、今まで気にならなかったようなことが気になるようになってしまった。


「だな。自分でも驚いたよ、でも長谷も香織も仲良くなれたみたいでよかった」


例えば人の気持ちとか。

どうでもいいと思っていたことがなぜか気になる。

藤宮の時もそうだった。


「私は...。仲良くしてるように見えて、できてないかも」


視線を落としながら、香織が言う。

なんだかその香織が苦しそうに見えて、首を傾げる。

僕には仲良くしてるようにしか見えないのに、違うのか?


「それってどういう―」


僕が聞こうとすると、香織は僕の手を掴んだ。

視線は下がったままだ。

でも、小さな手が僕の手をしっかりと掴んでいる。


「優希は藤宮さんのこと、どう思ってるの?」


香織がやっと、顔をあげて僕に問いかけてくる。

その瞳は心做しか潤んでいるように見える。

僕は返答に困った。


怒らせた時は、このままじゃ行けないと思った。

もっと、彼女のことを知りたいと。

でも、この気持ちがなんなのかは今の僕には分からない。


「僕は、藤宮のことを知りたいって思って...」


知ってどうするつもりなんだろう。

このまま4人で仲良くし続けて、結局はどうなりたいんだろう。

香織はどうしてこんなにも苦しそうなんだろう。


「私は、私はずっと優希が―」


「優希くん、香織ちゃん、大丈夫?」


「っておい!勝手に歩き回るなって!!」


香織がなにか言いかけた瞬間、部屋に藤宮と長谷が入ってきた。

香織がぱっと僕の手を離す。

結局そのまま、香織の言葉の続きは聞けないままだった。



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