第5話 無関心、怒られる

「昨日、香織さんとデート...してたって本当ですか!?」


なぜだか目の前で怒っている藤宮さんを見下ろす。

なぜ僕と香織が一緒にいると藤宮さんが怒るのだろうか。

昨日のは、別にデートじゃないし。


「はぁ...」


ていうか、デートってなんなんだろう。

どうでもいいし、早く開放されたい。

僕は気のない返事を藤宮さんに返した。


「前から思ってました、香織さんと優希くんはどういう関係なんですか?」


藤宮さんが意思が強そうな視線を僕に向ける。

どういう...関係...?

俗に言う幼なじみと言うやつなのではないだろうか。


「特別な関係じゃないっすよ」


僕が言うと、藤宮さんは頬を膨らませる。

クラスの男子はこういう顔が好きなんだろうか。

ぼーっとそんなことを考えていると、藤宮さんが僕のシャツの襟に手を伸ばす。


「じゃあ私が先に特別な存在になれば問題ないってことですね?」


僕の耳元で藤宮さんが囁く。

一体、何をするつもりなんだろうか。

僕は、ぐっと身構える。


「ふ、藤宮...さん...?」


藤宮さんの口が何となく僕の口元に近づいていく。

また、暴走している気がする...。

これが怖かったのに...。


「私以外、見ないで...?」


セリフ自体は可愛らしいものなのかもしれないが。

ひと気がなくて、この間の記憶がある僕は何となく怯えてしまった。

この状態じゃ、どうしたって藤宮さん以外見えないし。


「いや、ちょ...藤宮さん...!」


僕はどうにかこの状態を終わろうと、藤宮さんを突き放した。

少し力は強かったかもしれないけれど、そうでもしないと離れてくれそうにもなかったし。

息を整えながら藤宮さんの顔を見る。


「どうして...突き放すの...?」


すると藤宮さんの顔には影がさしていて、表情がよく見えない。

ただ声は落ち込んでいるようだった。

酷くショックを受けているような...。


「さっきから、話も真面目に返事をしてくれませんし!そんなに...そんなに私が嫌いですか?」


キッと上がった瞳には涙が浮かんでいた。

なんで、泣いて...。

別に泣かせたかったわけじゃない。


「い、いや...。そういう訳じゃ...」


僕がしどろもどろになりながら答えると、藤宮さんは涙を手で拭う。

この前のことがあって警戒していただけだ。

別に嫌いじゃないし、好きでもない。


「もう...もういいです...」


藤宮さんが僕に背を向ける。

真面目に答えなかったのは確かに良くなかったかもしれない。

僕はそれを謝ろうと、藤宮さんの腕を掴む。


「まって、藤宮さん」


僕が引き止めると、藤宮さんは1度立ち止まる。

けれど僕の方を振り向こうとはしなかった。

そして、静かに一言。


「少し、1人にしてください」


それだけ言って、藤宮さんは行ってしまった。

手の中から、藤宮さんの腕が抜ける。

なんだか不思議な気分だった。


「どうしたらよかった?」


いつもなら、こんなもんかとすぐに忘れられるのに。

べつにいいやとすぐに切り替えられるのに。

なんだか今回の藤宮さんの背中と静かな声は忘れられそうになかった。


いきなり絡み始めてきて、何を言ってるのか終始分からない。

その人がもういいと言ったのだ。

むしろ喜ぶべき状況じゃないのか?


それなのに、頭からどうしても藤宮さんの声が離れなかった。

手から、藤宮さんの腕の感触が離れない。

こんなのは初めてだった。


「優希?」


1人で立ち尽くしていると、後ろから香織の声が聞こえた。

そうだ、屋上から教室へ続く階段だったっけ?

そろそろ昼休みも終わるころかもしれない。


「どうしたの、なんか変じゃない?藤宮さんと一緒じゃなかったの?」


香織が僕の顔を覗いて問いかけてくる。

変、か...。

やっぱりいつもの僕らしくはないよな...。


「なんで怒ったのか分からない。あんなに涙まで流して...」


僕は呆然としながらそう言った。

すると、香織がため息を吐く。

僕はその意図が分からずに首を傾げる。


「気に、なるんだ...。珍しいね、優希が他の人のこと気にするなんて」


少し寂しそうな顔の香織が言う。

どうして香織はそんな顔をしてる...?

今まで気にしたことがなかったことが全て気になりだして、でもやっぱり1番気になるのは藤宮さんの事だった。


「怒らせちゃったんだ、藤宮さん」


香織が俯く僕に言う。

僕は何も言うことが出来ないまま、頷く。

すると、香織の手が僕の背中に回される。


「なら、謝って仲直り!」


ぱんっと背中を叩かれる。

香織なりの気合いを入れてくれたのかもしれない。

僕は香織の言動に少し驚きながらも、静かに頷いた。


「香織はやっぱり良い奴だな」


僕が笑顔で言うと、香織は少し複雑そうな顔をした。

そして頬を人差し指で気まずそうにかく。

僕はその微妙な反応に首を傾げる。


「良い奴...。仲直りしたら、容赦しないわよ?ただ、喧嘩したままだと優希がスッキリしないだろうし...私も気持ちよくないから...。それだけなんだから!さっさと仲直りしてよね!」


そう言って、香織は走って教室へ戻って行った。

そうだな、スッキリしない。

この気持ちにピッタリの言葉だ。











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