第4話 無関心、相談する

「んだよ、お前から呼び出しなんて珍しいね?」


僕は、屋上にとある男と二人でいた。

僕が呼び出したのだ。

なんだか凪のような僕の心が昨日のことでだいぶ荒らされてしまったから。


「ん?なになに、ほうほう」


僕から話を聞くこの男は友人の長谷。

ずっとふざけた態度のいい加減な男だが、僕の唯一の友人だ。

だからこうして相談している。


「藤宮さんがヤンデレ化して、おっかない?んで、かおりんがかわいい?お前、アホなんかぁ??」


長谷が僕の肩を掴んでぶんぶんと揺する。

いや、結構真面目に今の僕の悩みを話したんだが?

僕が心の中で一番馬鹿だと思ってる奴にアホ呼ばわりされた...。


「どっから聞いても幸せじゃねぇかっ!クラス1の美少女はヤンデレになっちまうくらいお前が好きで、アイドル幼なじみは変わらずお前ラブでやっと可愛さに気づいたってか!?どっちか俺にくれーー!」


長谷が空を仰ぎながら叫ぶ。

ヤンデレになられたら普通に怖いし、香織が僕ラブなんて聞いたことない。

どっちも僕になんて興味無いだろ、僕もそうだったし。


「でもなぁ...。ヤンデレは怖いんだよ...」


僕は空を見上げながら、ため息を吐く。

今思い出しても、怖い。

あの距離で問い詰められた、朝のあの時間。


「実感だなぁ。おもろい、そしてずるい!」


長谷はそれでもなお、拳を握って叫んでいる。

わかってるのだろうか、ヤンデレの怖さを。

代わってくれるなら代わって欲しいんだが。


「だから、ずるくもなんともないんだよ」


僕が再びため息を吐くと、長谷はちっちっと人差し指を振る。

僕は分からず、首を傾げる。

長谷はウインクしながら、ムカつく顔をしている。


「ちなみに俺は、かおりん希望な☆」


なんだ、ヤンデレ藤宮さんじゃなく香織か。

香織はアイドルだし、今まで男子の話とか聞いたことないし。

ダメだろうな、長谷でも。


「ダメだろ、あいつ男っ気ないし」


僕が言うと、長谷は深くため息を吐いた。

なんだか今日は長谷にため息を吐かれすぎている気がする。

気に食わん。


「男っ気ないって言うより惚れてる男が鈍感すぎるって話だろ」


少し真面目な顔つきになった長谷がそう言う。

惚れてる男...?

香織にそんなのいるのか??


「聞いたことないけど」


すると長谷が僕に手を伸ばしてくる。

両手で僕の頬を挟んでぐにぐにといじる。

なんだ、これは。


「言ってねーんだよ、気づけよいい加減〜」


そうは言われてもヒントが無さすぎないか?

僕は名探偵ではないんだが。

と思っていると、屋上のドアがバタンっと開いた。


「いた!優希くん、聞きたいことがあるんです。来ていただけますか?」


そこに立っていたのは、藤宮さんだった。

聞いている間にもずんずんと距離を詰めてきて、僕の腕をぱしっと掴む。

あ、これ逃げられないわ。


「あら藤宮さん。今この男は俺と話しているのですけれど」


長谷がふざけ気味にそう言うけれど彼女の耳には一切入っていないようだった。

僕の腕を掴んで、屋上の外へ連れていく。

あーあ、怖いなぁ...。


✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰⋆。:゚・*☽


「そこの君はいつまで立ち聞きしてるのかな?」


俺は、死角になっている位置で蠢く影に声をかける。

するとその影は肩を波打たせた。

まさか気づかれているとは思わなかったのだろう。


「気づいてたの?」


影は女子の姿になって、俺の前に現れた。

俺は手すりに肘をつきながら口角をあげる。

俺が君に気づかないわけが無い。


「俺様がかおりんに気づかないわけないでしょ〜?」


にこっと笑うと、反対に彼女はムスッとした顔をした。

不機嫌そうな顔も俺だけが見れる顔だと思うと、嬉しいもんだ。

出来れば笑いかけて欲しいもんだけど。


「このチャラ男が。だからいつまでもちゃんとした彼女出来ないんだよ?」


彼女はそう言いながら俺の隣に並んだ。

手すりを掴んで下を見下ろしている。

チャラ男でもなんでもいいけど、彼女はできないんじゃなくて作らないんだよ。


「じゃあかおりんがなってくれる??」


顔を覗き込むと、彼女はふいっと顔を逸らした。

だって本当に好きな人に振り向いて貰えないんじゃ意味ないじゃないか。

その人に彼女になってもらわなきゃ意味ないじゃないか。


「全部知っててそういうこと言うんだから」


そう、俺は全てを知っている。

全てを知ってしまっている。

だから、君にこの気持ちを伝える日なんて来ないだろう。


「追いかけなくていーの?藤宮さんにさらわれてったけど」


俺が聞くと、彼女は落ち込んだような顔を見せる。

そんな顔見せるなよ、君はあいつの隣で笑ってなきゃダメなのに。

そうじゃなきゃ、俺の胸が潰れてしまいそうなのに。


「昨日は2人の間にはなんにもないってそう思えたのに...。今は疑ってるなんて、私頼りないね」


香織は小さくため息を吐く。

俺はその姿に拳をぎゅっと握りしめた。

なあ、優希、今すぐ彼女を抱きしめてやってくれよ。


「んな事ねーだろ。相手がクラス一の美少女だからってなんだ、こちとらアイドルだぞ?」


俺にはこんなふうに励ますことしかできないのだから。


















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