第3話 無関心、デートに行く

「ご、ごめんなさい...。わ、私...!私...!!」


そう言って、走り去っていく藤宮さん。

僕も特段止めることなく、教室に戻ることにする。

やれやれ朝からなんだか疲れたな。


「ねえ、何してたの!?」


どんっと僕の机を両手で叩いて、少しムスッとした顔を見せる香織。

何をそんなに怒っているんだろうか。

僕は悪いことはしてないはずなんだけど。


「藤宮さんに呼び出されて、告られて」


状況を説明していると香織の顔が真っ青になっていく。

先程までの気迫は全くと言っていいほど消えていた。

僕は説明を止めて、香織の額に手を当てる。


「体調悪いのか?」


僕が言うと、香織はこれでもかと言うほど後ずさって僕から距離をとった。

ん?

僕、嫌われてる?


「べ、別にだだだ、大丈夫よ!最近ちょろーっと忙しくて疲れが溜まったのかしら?」


香織の言葉に僕はほう、と頷く。

さすがアイドル。

僕と違ってお金を稼いでるわけだしな。


「そんなに忙しいのか」


僕が聞くと、香織はぎくっと音がなりそうなほど動きを止めた。

いちいち動きに感情が出て、面白いやつだな。

と思うと、壁に寄って何やら縮こまっている。


「そ、そりゃあ駆け出しだし...グループでも?端の方の位置だし...。インスタだって1万人しかフォロワーいないけど...。でも一応アイドルなのよ?人気なくっても!アイドル!!なのに...誰かさんの態度はなんにも変わらないし...。もう...もう!!!」


何が何やらわからないけれど拗ねているのだけはわかった。

僕のどの言葉が香織を拗ねさせたのかはわからないけれど、一緒にしゃがみこんでみる。

すると頬を膨らませた香織と目が合った。


「何をそんなに思い悩んでるのかわかんないけど、アイドルっていうものになっただけでもすごいんじゃないだろうか。きっと誰でもなれるわけじゃないんだろ?ほんと、わかんないけど」


僕が言うと、香織はムスッとした顔のまま僕の頬に手を伸ばした。

何がしたいのかはよく分からなかったけれどとりあえずそのままにしてみる。

すると頬をぎゅっとつままれた。


「結局何も分からないんじゃない!このバカ...。ほんとは、たった1人のアイドルになれればそれで良かったのにね。ばーか!」


そう言った香織は今度は笑顔になっていた。

本当に表情がコロコロと変わるやつだ。

僕もつられて笑ってみる。


「あーあ、変な体力使ったから今日一緒に出かけよ!」


香織が立ち上がりながら言う。

僕も一緒に立ち上がって、首を傾げる。

僕は別にいいけれど...。


「アイドルってそんな外出していいの?」


「それは...人気アイドルの話でしょ?このバカ」


どうやら僕は馬鹿らしい。

それだけはわかったところで始業のチャイムが鳴った。

僕は自分の席に向かいながらどの授業で居眠りしようか考えることにする。


✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰⋆。:゚・*☽


「よーし行くぞー!」


香織がルンルンしながら近づいてくる。

僕はそう言えばと首を傾げた。

カバンに詰めるものを詰めながら口を開く。


「今日の朝、仕事あるって言ってなかったっけ?」


僕が聞くと、香織の顔がかぁっと赤くなっていく。

いちごみたいに真っ赤だ。

今の質問に赤くなる要素があっただろうか。


「あ、あれは...。何となく、アイドルってことで優希に見栄張りたかったっていうかなんて言うか...。そんなくだらないこと覚えてなくていいのよ、このバカ!」


また馬鹿だと言われてしまった。

僕に見栄を張ってなんの得があるんだろうか。

結局分からないまま、僕は香織の背中について行った。


「どこ行くの?」


やっと香織の隣に並んで聞いてみる。

香織は未だに少し頬を赤くしながら早足で歩いている。

僕はそんな横顔を見ながら歩を進める。


「クレープ!朝からクレープって決めてたから早く食べたい!」


香織がぎゅっと拳を握って、力説する。

そんなにクレープが食べたかったのか。

昔から甘いものが好きだなぁ。


「じゃあ、僕はいちごが入ったやつが良いな」


香織の横顔を見ていたらふとそんなふうに思った。

すると、香織がこちらを見て不思議そうに首を傾げる。

僕も同じように首を傾げ返す。


「いちご、珍しいね」


「なんか、香織の顔見てたら何となく。赤かったから」


僕が言うと、香織の顔はさらに真っ赤になっていった。


「私、いちごホイップで。あんたは?」


「僕、チョコバナナで」


僕が言うと、香織はまたもや首を傾げた。

僕ってそんなに不思議行動するだろうか。

僕もだんだん不思議に思っていると香織が口を開く。


「いちご、食べたいんじゃなかったの?」


「だって香織、いちごとチョコバナナで迷ってたじゃん」


僕の言葉に香織は嬉しそうな、照れくさそうなそんな表情を浮かべる。

そして自分のクレープを1口食べると、僕にも1口食べさせる。

突然の行動に、僕は少し驚いてしまった。


「間接キッス〜!シェアっていうのはこうやるものなのよ。でも安心した、間接キスでそんなに驚くんだもん。藤宮さんとはほんとに何もなかったんだね」


正直、朝のキスよりも心臓に悪い気がした...。







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