第2話 無関心、押し倒される

いまいち実感のないまま、口に出してみる。

ところで藤宮さんって誰なんだろうか。

まあ、誰でもいいんだけど。


「やっぱりそうなんですね!!お返事の動画、楽しみに待ってます!」


そう言って、女子生徒は行ってしまった。

はて、自分の言いたいことだけ言ってどこかへ行ってしまった。

お返事動画なんて一生出ないだろうに。


「ゆ、優希...。藤宮さんと仲良いの?」


香織がなぜか不安そうに僕を見上げている。

僕は、首を傾げてから首を振る。

なぜ香織がそんな表情をするのだろうか。


「ていうか、藤宮さんとは?」


僕が聞くと、香織はほっとしたように息を吐いた。

そして軽やかにステップを踏みながら、僕を追い抜く。

ひらりとスカートを揺らしながら僕を振り向くと笑顔で口を開いた。


「うちのクラス一の美女って呼ばれてる子だよ!まあそういうのに疎い優希には分からないかもしれないけど」


疎いというか、興味が無いというか。

そのふたつってイコールなのだろうか。

まあそれもどうでもいい。


「そうか、関係ないな。動画も藤宮さんも案外どうでもよかった」


僕が言うと、香織はどこか嬉しそうに笑った。

いつもは無関心だと怒るくせに、今日は終始笑顔を浮かべている。

怒られるのは好きじゃないからいいのだけれど。


「じゃ、優希のそばにいるのはこれからも私だけだね!」


そりゃそうだろう、という意味を込めて頷く。

すると香織はより笑みを深めた。

これ以上人脈増やしても面倒くさそうだし。


やけに上機嫌な香織と登校すると、教室が少し騒がしくなった気がした。

香織がアイドルだから?

まあ僕には関係ないだろうから、自分の席で寝ておこう。


「あ、あの。優希くん、少しいい?」


いつも通り自分の席に座ると、見知らぬ女子に話しかけられた。

いや、見知らぬじゃない。

今日の朝、動画で見た女子だ。


「藤宮...さん?」


僕の問いにこくりと頷いた藤宮さんは僕の手を掴んで、教室の外へと連れ出した。

教室内がさらにザワつく。

なるほど、朝の騒ぎはこれが原因か。


「あの、優希くんも知ってるかもしれないんだけど動画のことで...」


藤宮さん、と思われる人は俯いたまま話し出した。

その話し出しに僕は頷いて答える。

動画ならさっき見たばかりだ。


「あの...冷やかしみたいな感じで撮られてたけど好きなのは本気だから!」


というのは、この藤宮さんとやらが僕に好意を抱いているということ?

どうしよう、断る言葉考えるのめんどくさい...。

でもこれから関わり合いになるのはもっと面倒くさそうだな。


「えーっと。あなたのことよく知りませんし、お気持ち?はありがたいんですけどごめんなさい」


僕が言うと、藤宮さんは俯いたままだった。

あれ、まずかっただろうか。

言い方悪かった?


「私以外に好きな人がいるってこと?それとももう付き合ってる子がいるの?私の方が好きなのに?こんなに好きなのに??その子は私よりも優希くんのこと、好きなの???」


藤宮さんがブツブツと呟き続ける。

かと思いきや、僕の胸に手を当てて体重をかけてくる。

思いがけない重さをかけられた体がよろめいて地面に倒れ込む。


「ねえ、優希くん答えて。私が世界で一番優希くんのことが好きなのに、優希くんは私を一番にはしてくれないの?」


状況的には、藤宮さんが僕を押し倒しているような感じだった。

藤宮さんが僕を連れ出した場所がひと気のない場所だったから幸い誰にも見られてはいない。

それでもこんな僕でもわかるくらいこの状況はよろしくなかった。


「ちょ、藤宮さん。1回落ち着いて。離して貰っていい?」


それでも藤宮さんは頑なに僕の胸元のシャツを離そうとしなかった。

さっきの質問攻め。

よくは知らないけどヤンデレってやつじゃないだろうか。


「嫌よ、優希くんが答えてくれるまで絶対にどかない。ねえ、好きって言って?」


質問に答えたら解放して貰えるのだろうか。

このままは本当に離してもらえそうにないし、答えてみるか。

この体勢もなかなかきついし。


「好きな人は特別いないけど、藤宮さんが特別好きって訳でもない。これで、いい?」


僕が言うと、藤宮さんはさらに体重をかけてくる。

もう完全に僕の体の上に、藤宮さんが乗っかっている。

いや、本当にこれはやばいのではなかろうか。


「ダメよ、好きって言ってくれるまで一生離さないんだから」


もうすぐ始業の時間な気がする。

でも、好きって言ってエスカレートされたら困る。

ていうか、何にも興味のないはずの僕がどうしてこんなに一生懸命考えないといけないんだろうか。


「藤宮さん、本当に離して―」


頭も精神も限界に達した僕は藤宮さんの腕を引き剥がして藤宮さんを離そうとした。

本当に、それだけだったのに。

どうしてこうなったんだろうか。


「え、え...!?わ、私、今...優希...くんと...き、キ...!?!?」


その出来事を機に正気に戻ったらしい藤宮さんがパニックになった声をあげる。

パニックになるのも無理はない。

だって、僕と藤宮さんはキスをしたのだから。










  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る