クラス1の美少女とアイドルになった幼なじみが世界一僕のことが好きで彼女に立候補してきたことについて
月村 あかり
無関心が無関心じゃなくなるまでの話
第1話 無関心、モテる
「ゆーうーきー!おっはよ!」
目を覚ますと、元気いっぱいな笑顔が目に飛び込んでくる。毎朝どおりの光景に僕は何も感じることなく起き上がる。そこにはいつもと何ら変わらない幼なじみの姿があった。
「おはよう、香織」
僕が挨拶を返すと、幼なじみは満足気に笑う。僕は何がそんな表情をさせるのか分からないまま、ベッドから出た。壁にかけてある制服を取り、寝巻きに着ている中学時代のジャージに手をかける。
「ちょ、ちょっと待って、優希!もしかして…着替えようとしてる?」
恐る恐るといった表情で問いかけてくる香織に頷く。すると、香織は焦ったようにドアの方へとかけていく。その顔は心なしか赤いような気がする。
「もう!女子の前で着替えようとするとかどうかしてるよっ!玄関で待ってるからねっ」
香織は恥ずかしいのか怒っているのか分からない表情でそう言い放った後、部屋を出ていった。いつもなら僕が起きたらすぐに部屋を出ていく香織が今日はなかなか出ていかなかったから僕はいつも通りの着替えをしようとしただけなのに。なにか問題があっただろうか。
「ま、いっか」
分からないことを考え続けていても仕方がない。僕は改めてジャージに手をかける。着替えて、鞄を持って部屋を出ると香織がため息を吐きながら近づいてくる。
「もう~!今日も寝癖ついてるよ~?」
その手にはブラシが握られていて、香織が僕の髪を梳いてくれる。僕はされるがままに身を任せた。僕はあまり見た目とかを気にしないけれど幼なじみはこまめに気にするほうだ。
「そんなんじゃモテないぞ!」
香織は腰に手を当てて、僕に忠告する。僕は弁当を鞄に詰めながら首を傾げる。頭に手を当てるとすっかりと寝癖は落ち着いていた。
「別にモテる必要ないからな」
女子に興味が無い。恋愛にも興味が無い。というかまず、人に興味が無い。
「そ、それは…そりゃあ、優希のことは私だけが知ってればいいけど…さ…」
香織が顔を赤らめながら何やら呟いている。はて、今の場面で顔を赤らめる要素があっただろうか。僕はいまいち、香織の気持ちが分からないまま家を出る支度をする。
「だって、モテなくても一生香織がこうやって僕の世話、焼いてくれるんだろ?」
僕が言うと、香織はぱあっと顔を輝かせる。何がそんなに嬉しいんだろうか。嬉しがるようなことは言っていない気がする。
「い、一生ってことは…。け、結婚…とか?」
また何やら呟いているけれど何を言っているのかよく聞こえなかったのでスルーして靴を履いた。伝えなければいけない要件ならもっとちゃんと口にするはずだ。別に内容に興味もない。
「じゃなくて!今日、MVの撮影で午後からいないから帰りは別々だね」
香織が僕の顔を覗き込んで言う。香織は高校に入ってからアイドル活動とやらを始めたらしい。高校も芸能コースのある場所を勧められたりもしたが僕と同じ普通コースの高校に通っている。
「ふーん、了解」
僕が返事を返すと、香織は不服そうに頬を膨らませる。言われたことに対してしっかりと返事をしたのに何が不服なんだろうか。僕は意図が分からずに首を傾げた。
「興味のない、反応なんだもん!私がアイドルになった理由は…」
「あの!!藤宮さんと同じクラスの優希くん、だよね!?」
話しかけの幼なじみと歩いていると、1人の女子生徒に声をかけられた。藤宮、というのは誰だろうか。クラスメートの名前は最低限しか覚えていないため、ぱっと浮かんでこない。
「ちょっと、よくわかんないすけど優希で合ってますよ」
僕ができる限りの受け答えをすると、女子生徒の目がキラキラと輝く。この人は何がしたいのだろう。僕の名前がどうかしたのか?
「この動画、バズってますよ!」
女子生徒が僕にスマホを向ける。香織も僕の顔の横に自分の顔をひょっこりと覗かせた。2人でスマホの画面に表示された動画を見る。
「咲、好きな人とかいないの~?」
動画は男女数人で構成されたグループが教室の真ん中で談笑している様子を写しているものだった。1人の女子が、グループの中でも一際目立ちそうな女子に問いかけた。すると、その女子は顔を赤らめて口を開く。
「いるよ…。このクラスの…優希くん…」
照れたように彼女の口が紡いだのは僕の名前だった。ユウキなんて在り来りな名前だし、他にこういう名前の人がいるのかもしれない。仮にそのユウキが僕だったとしても全くもって興味がわかないんだが。
「どうですか!凄くないですか!!」
動画の題名には『クラス一の美少女の恋の御相手とは!?』と大袈裟に書いてあった。女子生徒が僕に真っ直ぐな視線を向ける。すごい…って何をもってすごいと言うのだろうか。
「なんだかよくわかんないことが多いけどこの、藤宮さんって人は何年何組の人なの?」
僕の問いに、女子生徒は「2年B組ですよ」と答えた。2年B組は確かに僕のクラスだった。そしてそのクラスに僕以外のユウキはいないはずだった。
「じゃあ、これは僕のことみたいだね」
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