ディメトロドン

「ペルム紀の大地にようこそにゃん!私は、“ディメトロドン”だにゃん!人間を見るのは初めてにゃん。きみのことは、そうだにゃ…ご主人様、とでも呼ばせてもらうにゃん!アノマロカリス先輩から、話は聞いてるにゃん。先輩のときは耳かきだったから、私はヘッドマッサージをしてあげるにゃん」


(どこからともなく聞こえてくる、ヒーリング用のベルの音)


「お、ベルの音だにゃん。この音が聞こえてきたってことは、マッサージの開始だにゃん!さあ、ご主人様、ここに横になるにゃん。大丈夫、柔らかい土で作ったベッドだから、固くないにゃん。汚れは、もとの時代に帰るときに、自動的に消えるにゃん」


(聞き手の人間が横になる)


「それじゃ、マッサージしていくにゃん」


(ヘッドマッサージ開始。ここから、小声になる)


「にゃーん…にゃーん…にゃにゃーん…にゃーん…え?何でにゃんにゃん言うのかって?それはね…わりと私は、猫に似てるんじゃないかって、思うからにゃん。目が大きくて、尻尾が長くて、四足歩行で…え?あんまり似てないにゃん?そうかにゃ~?…種族的にも、結構近いのに。ほら、私って“哺乳類型爬虫類”っていう種族だにゃん。だから、哺乳類との共通点も多いのにゃん。例えば、歯の形とかがそうにゃん。肉を噛みちぎる歯と、細かく切り分ける歯があるにゃん。これは、ご主人様でいうところの、前歯と犬歯にそっくりだにゃん。…まあ最近だと、“爬虫類じゃないから、哺乳類型爬虫類っていう名前はおかしいだろ”って、いろいろややこしいみたいだけど、私は、哺乳類型爬虫類っていう呼び名が、気に入ってるにゃん。だってそのほうがイメージしやすいし、見た目にも合ってるにゃん。…にゃーん、にゃーん、にゃにゃにゃーん、にゃーん…え?この背中の帆は何に使うのかって?うーん、正直、自分でもよくわかってないにゃん。ただの飾りとか、威嚇に使うとか、いろいろ意見はあるみたいだけど…体温調節に使うっていう説も、あるらしいにゃん。自覚はまったくないにゃん。暑いときは暑いし、寒いときは寒いにゃん。…んーでも確かに、ペルム紀の気候変動の中でこうやって生きてるくらいだから、それなりにアリっちゃアリな説かもしれないにゃん。自分では気づいてないだけで、涼しくなったり、あったかくなったり…うーん、だけどやっぱり実感はわかないにゃん。…にゃーん、にゃにゃにゃーん、にゃにゃにゃにゃにゃーん、にゃにゃーん…」


(お腹の音が鳴る)


「…ゲッ、お腹鳴っちゃったにゃん。食いしん坊だからかにゃ~、あはははは…たらふく食べたいにゃ~、お肉。…ご、ご主人様のことは食べたりしないにゃん。人間ってなんか不味そうだし、そこまで私、野蛮じゃないにゃん。…だけどまあ」


(左耳に口を近づける)


「ちょっとはむはむしてみたい、くらいには思うけどにゃん、フーッ」


(耳フーしたあと、耳から口を遠ざける)


「なーんてにゃ、ちょっとからかってみただけにゃん。…そうだ、耳を見て思いついたにゃん。ヘッドマッサージのついでに、耳もマッサージするにゃん。両手に、アロマオイルをたっぷりつけて…」


(手にオイルをつける。ここから、耳のオイルマッサージ開始)


「はぁ~ん、いい香りがするにゃん。嗅いだことのない香りだにゃん。“ラベンダー”っていう植物の香りらしいけど、私の時代には存在しないみたいだにゃん。オイルというだけあってヌルヌルしてるけど、これがリラックス効果に使えるとは意外だにゃん。ヌルヌル、にゃにゃにゃーん、ヌルヌル、にゃにゃにゃーん…話を続けるために、話題をちょっと戻すにゃん。とにかく、私は人間は食べないにゃん。個体によって違うかもだけど、私は食べないにゃん。食べるなら、当然、エダフォサウルスだにゃん。私とよく似た生き物だけど、あいつらは草食だにゃん。一匹仕留めたらガッツリ食べられるにゃん。…まあ、ほかのディメトロドンたちに横取りされることはあるけどにゃん。…ヌルヌル、にゃにゃにゃーん、ヌルヌル、にゃにゃにゃーん…エダフォサウルスを仕留めるにあたって、私は当然狩りをするわけだけど、いつも上手くいくわけじゃないにゃん。ぶっちゃけ、難易度は高いにゃん。エダフォサウルスはたくさんいるけど、追いかけると一斉に逃げ出したり、抵抗してくることもあるにゃん。…最も、ペルム紀に限った話ではないんだけどにゃん。ご主人様の時代でも、ライオンはシマウマの狩りにけっこう失敗するらしいし、野生あるあるなのかもしれないのにゃん。…あはは、こんな話をしてると、余計にお腹が減ってきちゃうにゃん。…そうだ、ご主人様の時代のお肉を、いろいろ食べ比べしてみたいにゃん。牛や豚、鳥もいるみたいだし、いろいろ食べてみたいにゃん。“黒毛和牛”っていうのが、特に気になるにゃん。ご主人様がペルム紀に来られるなら、逆に私がご主人様の時代にお邪魔するっていうのも、そのうちできるようになるかもしれないにゃん。そうなったら、当然ご主人様のおうちに居候させてもらうことになるから…」


(右耳に口を近づける)


「…ご主人様と二人っきりで、あんなことや、こんなこと、しちゃおっかにゃん、フーッ」


(耳フーしたあと、耳から口を遠ざける)


「ふふふっ、ご主人様ったら、またビクッてなったにゃん。…ヌルヌル、にゃにゃにゃーん、ヌルヌル、にゃにゃにゃーん…」


(耳のマッサージが一分ほど続く)


「…ヌルヌル、にゃにゃにゃーん、ヌルヌル、にゃにゃにゃーん…あれ?ご主人様、なんだか眠そうだにゃん。眠ったら帰っちゃうシステムらしいから、その前に耳、拭かせてもらうにゃん」


(耳をタオルで拭く)


「…最初にちょっと触れた話だけど、この時代の土や何かでついた汚れは、この時代にしか残らないにゃん。だから、背中についた土も、きれいさっぱり取れるから安心してほしいにゃん。…裏を返すと、私はご主人様に、お土産どころか、痕跡一つのこしてあげられないのにゃん…」


(終わり)

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