鈴木と田中と鈴木と田中

エリー.ファー

鈴木と田中と鈴木と田中

 僕の頭の中には、呪いが詰まっている。

 呪いには名前が書かれており、そのほとんどが、鈴木か田中だ。

 鈴木も田中も、僕の周りにいる。

 僕は呪い殺された状態で生き続けている。

 もはや、勘違いが僕の心臓を動かしていると言っても過言ではないだろう。

 鈴木が田中になり、田中が鈴木になる。

 悪夢の中を泳いでいるような、冷たい感覚。

 僕は、一体、いつになったら、鈴木からも田中からも解放されるのだろう。

 確かに、僕は高校一年生だった時に、鈴木と田中をいじめて、自殺に追いやった。

 でも。

 過去の話だ。

 僕は四十二歳になった。

 死んだ田中も鈴木も、僕のことを憶えているとは思えない。

 いつまでも、いつまでも、いつまでも。

 呪いとして存在し続けるのは、正直、良いことであるとは思えない。

 自殺するべきではない、なんて、説教をする気は微塵もない。

 呪われた身となって。

 そう、呪われた身となって。




「このあたりに知り合いはいません」

「何故ですか」

「殺しました」

「穏やかではありませんね」

「もちろんです。死を感じさせたくてしょうがなかったのですから」

「暇だった、のですか」

「それもあります」

「じゃあ、少しだけ時間を潰してみませんか」

「何をするのですか」

「数字当てです」

「ルールをお願いします」

「まず、一から百の間で思い浮かべて下さい」

「はい、思い浮かべました」

「三回、以内に当てます」

「無茶ではないでしょうか」

「いや、できます」

「では、やってみせて下さい。非常に楽しみです」

「それは、十二です」

「違います」

「そうですか、残念です」

「これで、あと二回ですね」

「いえ、今のは回数に含んでいないので、ただの質問です」

「えっ」

「えっ、何がですか」

「いや、その、えっ、何ですかそれ」

「えっ、そのっ、あの、そういうものなんですけど」

「あっ、そうですか。分かりました。では、次に数字を言う時は、その前に回数に含めるかどうかを教えて下さい」

「いや、言いたくないです」

「えっ、じゃあ、何回でも言えますよね」

「えっ、話を聞いてましたか。三回までですよ」

「いや、その、そういうことじゃなくて、回数に含まれているかどうかを教えてくれないと、無限に言えてしまいますよね」

「いや、三回までです」

「違います。その話じゃないです」

「えっ、数字当てのことを話してるんですよね」

「そうですよ。ただ、そうなんですが、違うんです」

「哲学ですか」

「違います」

「数字当てを難しく考えていませんか。もっとリラックスして下さい。よくあるゲームですよ。そこまで難しいルールではありません」

「分かっています。私が困っているのは、あなたの卑怯な戦い方です」

「卑怯ではありません。戦略です」

「戦略という言葉で、卑怯を隠すようなことがあってはならないと思います」

「人は往々にして、受け入れられない戦略を卑怯だと定義します」

「数字当てゲームをフェアに楽しみたいだけなのです」

「ただのゲームで、そこまで真剣になれるのは才能だと思いますよ」

「随分な言いようですね」

「事実ですから」

「あの、間もなく死ぬかもしれません」

「誰がですか」

「私が、です」

「ご愁傷様です」

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