スタンドバイ

「あとは、そうだな。てっきり死なないと思ってたから、セリーになんか残さないとな……」


 生まれて初めての経験だった。胸に棒を突っ込まれ、肋骨がごり、と砕かれる。フラックは思わず顔をしかめた。


「アクセサリーとか、もっと買ってあげればよかったかなあ。そうだ、さっきの魔術の特許資料とかでせめてお金とか……」


 唯一空いた手で野帳を取り出し、書き残そうとしたが、片手では難しそうだった。ギプスの中も血でいっぱいだ。不快な感覚が腕を埋める。いよいよ、胸も合わせて出血がひどい。


「どうして、逃げた」


 魔族は同じ言葉を繰り返すだけ。おそらく意味も分かっていない。だがこの瞬間、フラックはふと、魔族に問われた気がしたのだ。


「だってさ、言葉尽くしたってさ、好きだって伝わったか、ずっと不安なんだ。でも、そういうのもよくなかったかな」


 そうだ、せめて野帳には、と思ったが、そのとき、胸当てが砕けた。そして、あっさりと〈針の魔族〉の腕がフラック・ヘイランの胸を貫いた。


「アクセサリーとか、もっと買ってあげればよかったかなあ。そうだ、さっきの魔術の特許資料とかでせめてお金とか……」


 唯一空いた手で野帳を取り出し、書き残そうとしたが、片手では難しそうだった。ギプスの中も血でいっぱいだ。不快な感覚が腕を埋める。いよいよ、胸も合わせて出血がひどい。


「どうして、逃げた」


 魔族は同じ言葉を繰り返すだけ。おそらく意味も分かっていない。だがこの瞬間、フラックはふと、魔族に問われた気がしたのだ。


「ちょっと変わった夫婦だからさ、言葉尽くしたってさ、好きだって伝わったか、ずっと不安なんだ。でも、そういうのもよくなかったかな」


 そうだ、せめて野帳には、と思ったが、そのとき、胸当てが砕けた。そして、あっさりと〈針の魔族〉の腕がフラック・ヘイランの胸を貫いた。


「どうして、逃げた」


 魔族は同じ言葉を繰り返すだけ。おそらく意味も分かっていない。だがこの瞬間、フラックはふと、魔族に問われた気がしたのだ。


「だってさ、言葉尽くしたって……」


「あの! いい加減諦めるのやめてもらえますか!」

 

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