怒られる PartⅠ

 セレイが目を覚ますと、見知った顔が彼女を見下ろしていた。なんと言おうかとても迷ったが、セレイはため息を一つつくと、


「ごめんなさい」と謝った。


「なんであんなことをしたんだ」


 フラックが怒りを目に滾らせそういった。


「やっぱりばれたんだ」


「新聞にも〈ダオド〉が出たことが載ってるからね。勿論、僕はここから出てないし。大活躍だったね」


 やけに〈ダオド〉の話を堂々とする、と思ったら、ここは看護師用の休憩室だった。椅子に腰かけセレイを見つめる彼の傍に、松葉杖が転がっている。


「もう足、大丈夫なの?」


「おかげさまで。松葉杖も改造させてもらった。これ、今度特許取ろうかな」


 なにやら便利な機能でも仕込んだのだろうか。だが、そこまで考えられるほど頭が回らない。


「一応、状況はわかってる。サトライカ隊長は魔族に殺されかけていたところを、〈ダオド〉に助けられたって」


「うん。おじさんは……」


「無事らしいよ。中央病院で診てもらってるはず。ただ、昨日の今日だから油断できないと思う。出血も多いって」


「多分、大丈夫だよ」


「そうだね。君がそんなになったのに死なれても困る」


 冷たくフラックは言った。否、感情の置き場がわからないのだろう。


「ごめんなさい。でも、ああするしかなくって」


「そうだね。僕も、人のことは言えない。だから、言わない。そもそも、君ができるような環境を作った僕が悪い」


 そういいながら、フラックは椅子から立ち上がった。彼の足のギプスからまるで皹のような文字のような、不思議な文様が浮かび上がった。魔術で体を支えているらしい。


「来い」


 彼の言葉に松葉杖がひとりでに動き、フラックの手に納まった。


「じゃあ、僕は家に帰る。君のことは伝えておくからもう少し寝てなさい」


「はい」


 セレイは、彼の言葉に大人しく従った。というよりも、瞼の重みに抗えなかったのだ。

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