事件
中央病院を去る直前。フラック・ヘイランの杖を回収したセレイは、病院内がにわかに騒がしくなっていることに気付いた。見舞客の受付もとうの昔に終わっているだろう。それなのに、看護師たちが右へ左へ忙しそう。
中央病院こそセレイの前世が知る、入院施設が充実した大病院に匹敵する。ドーダムでは最も豪華なホテルや、宮殿に次ぐ三階建ての建物はかなり『現代的』だったため、いろんな意味で彼女が安心する建物でもあった。
そこをわたわたと走る人の中で、悪いとは思いつつ、知った顔の看護師をセレイは呼び止めた。
「魔族の事件だそうです。もしかしたら、十人以上、搬送されてくるかもしれません」
彼女はきびきびとそう言った。
「十人以上?」
セレイは大声を上げてしまった。血の気が引くのを感じる。戦争中はともかく、戦争後の魔族は不思議と、徒党を組んだ攻撃も、大量殺人も稀になっていた。ひどい時でも一日五、六人か。かつ、そもそも人間も魔族に対抗することもできる故、怪我をする前に追い返すことも少なくない。そういうこともあってか、彼女の言った内容は、信じがたいものだった。
「居住区だそうです。あの……」
気まずそうな様子に、セレイはこれ以上呼び止めるのはよくないと気づいた。
「ごめんなさい。ありがとう」
そういって、彼女を送り出す。本当は手伝いたいところだったが、中央病院のルールを知らない自分が何をやっても邪魔なだけだろう。それより、ドーダム南病院にも出番が回ってくる可能性がある。一度戻った方がいいかもしれない。
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