こういうこともありました
左右に体が揺すられる。周りの人たちも同じく歪んで見えていて、これは地震か、と思った。でも、それ以上の騒ぎにはなっていない。だから、少なくとも地震ではないんだろうなー、なんて考えていた。
すると、今こうして体が宙に浮いて揺すぶられているように感じるのは、果たして電車が揺れているのか、それともわたしが疲れてぐらぐらなのかは、よくわからなかった。この過密具合、電車の中特有の熱気か。最初は気持ち悪かった他人との接触も、慣れてしまえば気にならなくなっていた。
新卒一年目。訳が分からないまま、とにかくネームバリューだけで選んだその会社で、わたしは××連勤を達成していた。今思うと、バリバリ働く自分に酔っていたとしか思えない。
最初の十連勤ぐらいは、とにかくせっかく内定ももらえたし、と頑張っていたものだが、次の十連勤目に突入した時、わたしと一緒に働いていた同僚がトんだ。だからわたしが倍働いて穴埋めをすることになった。その後は、あれ? わたし、なんでこんなに働いているんだっけ。
わたしを囲う人の群れが動きだす。
釣られて、電車を降りる。否、人の流れに身を任せ、ずるずると移動するのだ。
慣れてくると、せめてもの慰め程度に眺めていたSNSをチェックしながら移動するなんてのも訳がない。わたしが降りる駅は有名なビジネス街。適当に身を任せて降りればよいのだ。
そんなことを考えてた時、ふと、声がした。
「おい! あんた!」
なんだろう? そう思ったとき、わたしが自分が正真正銘、宙にいることに気付いた。そして遅れて、電車から、今までで一番強烈な警笛の音を聞いていた。
そう、わたしは電車に乗っていなかった。まさにこれから乗るところだったのだ。なのにもう、頭がぐわんぐわんするせいで、電車に乗るのか降りるのか、そもそも周りに人がいるのかいないのかもわからないまま、ただスマホの画面を見ていたわたしは、きっとふらふら独りで歩いて、駅のホームから飛び降りていたのだった。
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