かためられていた

 昼を過ぎたころ、護衛付きでフラック・ヘイランがドーダム南病院に到着した。詳細を聞いていなかったため、彼が左足と右手をギプスで固め、頭にたっぷり包帯を巻いて出てきたとき、セレイは血の気が引いた。


「生きてる?」開口一番の言葉はこうなった。


「まあね」


 元気なくフラックは言った。その後、病室に彼を『設置』し終わると、額に汗が浮いていた。


「全く、なにやってんの」


「ごめん。多分、徹夜明けだったからかな」


 フラックはその異様な体の弱さ故、当然のように骨も脆い。とはいえ、ここまで派手に骨折したのは見たことがなかった。


「でも、思ったより元気そうだね」


「一応、薬が効いているので」


 なるほど、と思った。


「じゃあ、薬が切れる前に寝て。なにかあったら呼んでね」


「あの、いくつか気になるんですが」


「なに?」


「後、どれくらいで治る?」


 心配そうなフラックの声に、セレイは逡巡したが、ささっとあたりを見渡した。聴取があるので、今、彼は堂々と六人部屋を一人で使っている。当然、二人を置いてこの部屋に人はいない。だが、改めてそれを確認すると、セレイはフラックの腕に抱き着いた。


「あの、いつも思ってるんだけど、それ、なに?」


「いいから」


 そういってフラックをセレイは静かにさせる。そして、離れると、


「大体、五か月とか、下手したら半年くらいかな」


「ながっ」


 フラックは大声を出した。


「でも、いい薬あるし、魔術も効きそう。二か月くらいかな。リハビリも頑張れば、一か月でいけるかも。戦争、様様だね」


 魔術治療は魔界戦争の最中にどんどん進歩した。魔王を討伐すればするほど、その跡地から出てきた道具や素材は魔術に転用されていった。そしてあれから十年たった今となれば、治療に使える魔術の種類は圧倒的に増えたというもの。


「そっか。それくらいなら大丈夫かな」


 多分、仕事のことではなく、次の魔族のことを考えているのだろう。魔族は基本的に単独行動で、かつ散発的に人を襲う。その期間に法則がないが、長い時は半年ほど開くこともある。


「無茶はだめだからね。いい機会だし、ゆっくり休んで。わかってると思うけど、魔族は衛兵隊に任せるものだからね」


「わかってます」


〈ダオド〉はフラックの怪我や病気の状態をそのまま引き継ぐ。目が腫れたときもそうだったが、骨折や怪我などもそのままだ。この状態で〈ダオド〉になっても、負けるのが目に見えている。


「ちなみに、僕の杖は?」


「そこにあるよ」


 セレイは壁に立てかけてある松葉杖を指差した。こんな姿になっていると知っていれば、用意しなかったかもしれない。


「そうじゃなくてさ」


「……ここにはないね。多分、中央病院で預かってると思うから、あとで聞いてみる」


「できれば取ってきて」


「そうだね」


 と、セレイは返事をしたが、取りに行くのは気が進まない。


「じゃあ、わたしは戻るよ。いい?」


「はい。なるべく早く治してください」


「わかってる」


「あと!」


「まだなにか?」つい嫌そうに言ってしまった。


「君も、休んで。僕のせいで悪いんだけど」


「わかった。ありがと」


 反射的にそう答えていた。朝こそ動揺したが、彼の顔を見て、会話をして安心している自分がいる。なんとなく気恥ずかしくなり、セレイは頭を振った。結婚して二年近く経つのに。


「全く、嫌なの」


 病室を出ると、セレイは爽やかにそういった。

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