訊くのも仕事
旧魔王城跡に建設された城塞都市ドーダム。魔界戦争終結から十年経った今、この地は人類にとって忌み地ではなく、発展の象徴へと変化していた。とうに人口は一万人を超え、家屋がびっしりと立ち並び、市場に品物が溢れている。
ドーダム建設以前、魔王ドドダ攻略戦からこの地で隊を率いていたレータ・サトライカからすると、今目の前にしている光景は夢のようだった。
「サトライカ様、こちらです」
そんな発展し続けるドーダムにおいて、少々外れたところにある小さな病院、ドーダム南病院に彼は来た。目的は、聴取である。迎えに出てきた看護師は戦場から顔見知りだ。彼女は、本当に幼いころから野戦病院で働き、今も看護師をしているのだ。
「えっと、イーザ……」
「ヘイランです、隊長」
「すまない。慣れなくてね」
セレイ・ヘイランはほとんど娘のような存在だった。彼女は十歳ぐらいの頃から、医者であり父のノルイ・イーザルの後を付いて各戦場で看護師をしていたのだ。様々な戦地で、レータ自身、何度か包帯を巻いてもらったことがある。ノルイ医師の指示のお陰か、セレイ自身の手先の器用さか、どんなに怪我をしても、彼女が治療した後は力が漲るようであったのをよく覚えている。
「君みたいな戦争の立役者の名前を間違えるとは、恥ずかしい」
「いいえ。ただの看護師ですから。それに、なぜかみんな間違えます」彼女は小さく肩をすくめた。
その様子に思わず笑んでしまう。あんなに小さかった子が、こうもきちんと、おじさんのフォローまでする女性になったのを見るのは感慨深い。
「いいや、もう歳だ。そろそろ足だけじゃなくてボケの方でも君の世話になるかもしれない」
「その時の請求額、凄いですよ」
「孫もいるんだ、意外に厳しいんだぞ」
この前も、孫にせがまれて珍しいおもちゃを買わされてしまった。妻にも息子にも怒られたが、不思議なことに、孫の笑顔を見ると間違いを犯したとは微塵も思えなかった。
「じゃあ、おじいちゃんはもっと頑張らないと、ですね」
「その通りだ」
何も言い返せない。息子の時は戦争で忙しかったし、子育てはすべて妻に任せきりだったため気づかなかったが、こうして人が成長する様を見るのは楽しい。ボケてなどいられない。
「それで、例の被害者は?」だから、仕事に戻る。
「ベッドにいます。やっと様子が落ち着くようになりました。お話もできます。最低限ですが」
「結構。案内を頼む」
セレイに案内されて、病院内を進む。ドーダム南病院は六人部屋が三つしかない小さな病院である。
「こちらです」
彼女が扉を開いた先、六人部屋の奥に一人だけ。ベッドで横になっている人影がいた。
「ありがとう。一応、部屋の外で待ってくれるかな」
部外者に訊かせるわけにもいかない。レータがそう伝えると、セレイは浅くうなずいて一歩下がった。
「何かあったらすぐに呼んでください」
頼もしく彼女はそういった。
「そうする。ありがとう」
小さく会釈し、レータは一人病室に入った。
「こんにちは。ルーマ・メーナードさんですね」
事前に暗記していた彼の名前を確認する。頭まで包帯を巻いた、かなり痛々しい姿の男は、ゆっくりとこちらを向き、はい、と力なく返事した。
「ドーダム第三衛兵隊隊長、レータ・サトライカです。事件についてお聞かせ願いたいのですが、いいですか」
レータは胸の勲章を指す。彼の所属、階級、名前が刺繍されている。
「わかりました」
それを、目を細めて確認したルーマは頷いた。
「まずは、教えていただきたい」
レータは一呼吸置く。この事件の被害者は、皆が皆、異様に事件のことを思い返すことを恐れるのだ。だが、だからといって遠回しに質問を投げてもうまくいった試しはなかった。故に、レータは迂遠な言い回しなどせず真っすぐ訊ねる。
「あなたを襲った魔族、その見た目や能力について、です」
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